一般の雇用者とは異なり、経営者の中には「定年退職」という制度に縁のない人も少なくないでしょう。しかし、認知症患者数が増大する日本においては、事業承継は後回しにできない喫緊の問題です。社長が認知症になると、会社にどのような影響が及ぶのでしょうか? ここでは事業承継に着目し、法的観点からそのリスクを解説します。※本連載は、坂本政史氏の著書『社長がボケた。事業承継はどうする?』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

断能力を失ったら「代表者の交代」はどうなる?

【チェック①】本人確認・意思確認ができないとどうなるの?

 

本人確認・意思確認ができなければ、司法書士等が役員変更登記を受任することができません。判断能力がない社長の法律行為は無効になりますので、変更登記の手続を委任等する契約も、原則として無効です。日本司法書士会連合会の規定基準により、司法書士は、依頼者等の本人確認及び意思確認をする義務を負っています。弁護士も同様に、日本弁護士連合会が、依頼者の本人特定事項の確認等をする規程を設けています。

 

【チェック②】任期満了を待つか、解職または解任させることになるの?

 

代表取締役の任期の定めはありませんが、取締役の任期と同じになるのが通例です。取締役の任期は原則2年(※注2)と定められており、現代表者が判断能力を失うと、任期満了まで辞任による代表者の交代ができません。

 

※注2 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く非公開会社(すべての株式に譲渡制限を付している会社)であれば、最長10年まで伸長することができます。

 

もっとも、取締役会の決議により、代表取締役の地位のみを奪う解職をすることもできますが、議決要件を満たせず、取締役会決議ができない場合もあり得ます。

 

また、取締役が各自会社を代表する場合には、解職のみをすることはできず、取締役の地位まで奪う解任をすることになります。代表者の解任をするには、株主総会の普通決議を要しますが、認知症になった現代表者が大株主でもある場合には、株主総会の決議ができない場合があります。

 

つまり、社長が認知症になり判断能力を失うと、事業承継に必要不可欠な「代表者の交代」がすぐにできなくなるリスクがあるのです。

 

事業承継に最低限必要とされる2つの法的手続のうち、「株式の承継」については次回詳説します。

 

 

坂本 政史

公認会計士・税理士

 

 

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社長がボケた。事業承継はどうする?

社長がボケた。事業承継はどうする?

坂本 政史

中央経済社

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