「駆除すべき対象としてしか見ていなかった生き物に対して、ネズミさんたちと呼びたくなるほどに親しみを感じている」「解き明かして得たネズミさんたちの習性が、今後のドブネズミ駆除に役立つのであれば、私にとってこれ以上喜ばしいことはない」――ネズミ捕獲のプロ・山﨑收一氏は書籍『捕獲具開発と驚くべきネズミの習性』(幻冬舎MC)で、そう語っています。

プラスチックの踏み板に乗って出ようとしたのか…?

まず、左上の個体の脱出についてである。入口に取り付けたL字金具の一部が下に押されて変形していたが、これは入口が少し開いた時に、中の個体が出ようとして左下にあるL字金具の一部を下方向に押し続けたことによる変形である。

 

この場所の中と外に血が付いていないので、この時点で外の個体と中の個体は怪我をしていない。ただ、押し続けて変形した部分の反対側に位置するプラスチックの踏み板上に血が沢山付いていた。

 

その後プラスチックの踏み板に乗って出ようとしたのだろう。より大きい力が必要になった。外と中の個体が鼻先を隙間に入れて押している途中、どちらかがあきらめて身を引いた瞬間に事故が起きたのだろう。鼻先を挟んでしまって出血するほどの大けがをしたのだ。

 

何回も繰り返している間に外の個体も口元を怪我したことが、外に付いた血痕から推測できる。出血の多さから中の個体の方が、より傷が深かった。そして、中にいた個体は共同作業の結果脱出に成功した。

 

次に、中上の個体はプラスチックの踏み板を後方に押し下げることで無事脱出できたのだが、L字金具の外側に血が付いていたので、外に口元を怪我した個体がいて脱出の手助けをしたのだろう。

 

そして最後に、最も苦労したであろう右下の個体について推理した。線材に引っかけてぶら下げてあった金属板が大いに脱出の妨げになったようだ。6cmの穴を潜り抜けないと入口の下端を押すことができないが、3cmほどの隙間では無理だったのだろう、口元から血を流しながら何度も6cmの丸い穴から出ようとしていたことが写真から見て取れる。

 

人の場合でもそうだが、まず入った所から出ようとする。通常ならここまでして出られないとすると別の方法を探すのだが、こだわり続けたのだろう。帯状の装着部分を曲げて変形させてしまったために、踏み板の上の左右の隙間から出ることがさらに困難になった。踏み板を押し上げ、最も大きな力が必要な中央部分から出たのだろう。不必要と思われるほど踏み板を持ち上げている(写真9)。

 

[写真9]外側の所々に血が付着している

 

中にいた個体が強くて大きい個体であることを連想させるし、体が大きいために一層出にくかったことを連想させる。救出活動は困難を極めたであろう。中と外の2個体が共に口元を血まみれにさせながら他の出口を探したであろうことが捕獲具内外のいろんなところに付いた血痕から伺い知ることができた。

次ページ思わずがんばれと言いたくなるほど感動的な行為だ。

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