本記事は、学習塾・灘学習院の学院長である江藤宏氏の著書『東大・京大に合格する子どもの育て方』より、むやみやたらに習い事をさせることの「無意味さ」について解説します。

頭を使うことは「車の運転」を覚えることと似ている

どんなことでも訓練を続けていれば必ず上達する、これはどなたでも納得いただける真理でしょう。訓練のやり方が適正なら、より効率的に上達する。頭の使い方も同じです。

 

例えば車の運転を考えてみてください。ハンドルを操作しながら、ギアを切り替え、アクセルやブレーキを足で調節する。曲がる時には後方をバックミラーで確認してから、ウインカーを出す。頭の中で常にさまざまな情報を収集・分析・判断しながら、両手両足をてんでバラバラに、しかも思い通りに動かすのです。

 

教習所で初めて車に乗り込んだ時には、ハンドルを握る手に力が入り、アクセルの踏み込み方がわからずにエンストしたり、ブレーキを急に強く踏み込みすぎてつんのめったりしたのではありませんか。最初はそんなぎこちない状態でも、教習を重ねていくうちに、どんどん動きはスマートになり、洗練されていきます。

 

やがて一般公道に出て練習すれば、他の車との関係性を理解しながら運転できるようになります。卒業検定に合格する頃には、ほぼ自由自在に車を操れるようになることでしょう。しかも、車の運転は一度覚えてしまえば、たいていの方が一生忘れることはないはずです。

 

頭を使うことも、車の運転を覚えることと似ています。たとえ運動神経に自信がなくとも、ほとんどの人が運転できるようになるのと同様に、頭を使うことも訓練しだいで誰でもできるようになるのです。しかも、一度頭を使えるようになれば、一生にわたって使い続けることができます。

 

ただし、頭を使えるようになるまでの時間には個人差があります。文章題の難問の場合は、少し込み入った問題文を、そもそも読み通すことのできない子どもがいます。文字面は最後まで追えたとしても、何が問われているのかが理解できない子どももいるでしょう。それまで難しい文章題など解いたことのない子どもにとって、最初のハードルはかなり高いといえます。

 

考えることのない期間を長く過ごしてきた子どもほど、考えられるようになるまでの時間が長くなりがちなことは理解いただけると思います。小学校1年生から考える訓練をするのと、小学校6年生になって始めるのとでは、頭が柔らかくなるまでに必要な時間が異なることも容易に想像がつくはずです。だから考える訓練は、少しでも早い時期から始めてあげてほしいのです。

 

けれども間違ってほしくないのは、何歳から始めたとしても、正しく訓練しさえすれば、必ず頭は柔らかくなることです。やれば必ずきちんと考えることができるようになります。中学から始めたとしても、大学受験で国公立を狙えるレベルぐらいには、まず間違いなく到達します。

 

頭の良し悪し、例えば知能指数と頭を使えるようになるかどうかは、ほとんど関係がありません。実際、私の塾にやってくる子どもたちのほとんどがごく普通の知能レベルです。それでも続けていれば、みんながそれなりに頭を使えるようになっていく。これは非常に興味深い現象であり、かつ子どもたちを指導する立場からすれば、とてつもなく自信を与えてくれる経験です。

 

中には、現時点では頭を使うことはできないけれども、がんばる力を持っている子どもがいます。例えば覚える勉強をがんばって、公立のトップ高校に合格していく子どもたちです。こんな子どもたちが、私の塾にやってくると、初めての思考訓練にもがんばるのです。

 

1時間、2時間と諦めずに頭を使い続ける。その結果、わずか1日で頭を使えるようになるケースが、これまでに何度もありました。その意味では、考える力とがんばる力はセットで考えた方がよいのかもしれません。

見た瞬間に解ける問題に取り組むのは時間の無駄

あるいは、こういう例もあります。小学校3年生の子どもが3人います。彼らに同じ算数の問題を解かせました。一人は1分もかからずに答えを出しました。別の子どもは、少し考えたのでしょうが、放棄しました。もう一人の子どもは、30分考え続けたけれども解くことができませんでした。

 

この問題に挑戦した3人のうち、最も良いトレーニングになったのは誰でしょうか。すぐに解けた子どもにとって、この問題はやる必要がなかった問題といえるでしょう。おそらくこの子は、問題を見た瞬間に解き方がわかった。そんな問題を解くことは時間の無駄でしかありません。

 

少し考えて諦めた子どもには、今後の伸びしろがあると思います。今は諦めるしかなかったとはいえ、それは考え続ける訓練をしていないだけのことです。誰かに励ましてもらえば、あるいはまわりにいる子どもたちがみんな真剣に考えているような場に放り込まれれば、また考える面白さを少しでも知れば、5分、10分と少しずつ長く考えられるようになります。

 

そして、最も良い訓練になったのが、最終的に問題を解くことはできなかったにせよ、30分間考え続けることのできた子どもなのです。

東大・京大に合格する 子どもの育て方

東大・京大に合格する 子どもの育て方

江藤 宏

幻冬舎メディアコンサルティング

「うちの子は勉強しているのに成績が上がらない」、「あの子は勉強しているように見えないのにいつも成績がいい」と感じたことはありませんか? 実はわかりやすい授業ほど、子どもの可能性を奪っているとしたら──。 40年に…

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