日本には、秘密にすることによって穏便に事を済ませようとする文化がありますが、相続が発生すると状況は一変します。実際富裕層の間では、「知らなかった」では済まされない、ドロドロの相続トラブルが発生しているのです。新月税理士法人の佐野明彦氏が、事例をもとに解説します。

株式の種類によっては…

上場株であれば市場で売買することができますが、非上場株は簡単に売れません。そのため《トラブル事例》のように、株式の種類や状況によっては名義人が会社に対して株式の買い取りを求めることがあります。

 

たとえば「取得請求権付株式」は請求があれば会社が取得しなければならない株式です。種類株の一種で、株主の方から「この株を買ってください」と請求できる権利がついた株式なのです。

 

第三者への譲渡を制限する「譲渡制限株式」も買い取りの対象になることがあります。これは所有者が第三者に株式を譲渡する時には会社の承認が必要な株式です。株式は経営権と一体のものですから、不都合な人が持ち主になると経営が不安定になるなど大きなリスクが発生します。そのため、非上場会社では自社株に譲渡制限を付けていることが一般的です。

 

この株式は譲渡する時には会社の承認が必要なので、ライバル会社や反社会的な団体などに株式を持たれてしまうことを予防できます。

 

ただし譲渡を制限する代わりに、譲渡制限株式を持つ株主から「株式を売却したい」という求めがあった場合、会社側は次のいずれかの対応を選択することになります。

 

① 第三者への譲渡を認める

② 会社が買取人を指定する

③ 会社が買い取る

 

先にも説明した通り、株式が第三者の手に渡ると経営が不安定になりますから、できる限り②もしくは③を選びたいところです。ただ、②の場合は資金力があってしかも信頼できる人物や組織が買い手として手を上げてくれなければ実現できません。そんな買取手は簡単に見つかりませんから、かなり難易度の高い手段と言えるでしょう。現実的には③を選択することが多いのですが、こちらは会社に資金力があることが前提となります。

 

こういった種類株以外に、会社の重大な意思決定の「反対株主」の株式も買取請求の対象となります。

 

会社経営では合併や分割、事業譲渡など重大な決定を下すことがあります。株主がこれに反対の考えを持つ場合、上場株なら市場で売り払うことで投資した資本を回収することができますが、非上場株ではそれができません。

 

買い取ってくれる人を個人的に見つけるのも煩雑です。そのため会社側の重大な意思決定に反対する株主には、会社側に株式の買い取りを請求する権利が認められているのです。

 

買取請求が出されたら、会社側は株主側と買取価格の協議を行います。上場株なら市場価格が目安になりますが、非上場株の場合には妥当と思われる範囲で希望額を出し、両者の希望とすり合わせていくことになります。

 

交渉が決裂した場合は裁判になり、裁判所が買取価格を決めます。その基準になるのは、会社の資産から負債を引いた純資産や、会社が獲得する将来のキャッシュフローなど状況によってさまざまです。注意したいのは、こういった方式によって算出される株価は、相続税の算定における財産評価とは異なるということです。

 

状況によっては、裁判所によって決定される株式の価格は、相続税評価額に比べてはるかに高額になるので、買取請求をされた時には大きな資金を要する可能性が高くなります。

 

好調の企業でも余裕資金をあまり持っていないケースは少なくありません。資金がなければ株式を買い取るために事業用の資産を売却したり、借入を増やしたりといった対策をとることになり、事業に大きなダメージを生じることがあります。

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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