一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

いざ話を聴かせてもらうと、「苦情」といったものも当然含まれていました。私や糖尿病内科に対するネガティブなご意見があることは予想していたとはいえ、やはりちょっと心が折れそうになるものです。

 

ただ、このように様々なポジションの方々から「佐藤文彦」や「糖尿病内科」に対する生の声を聴けたことで、病院や病院を取り巻く地域医療体制の実情についても、徐々に立体的に「見える化」されていきました。

 

そして、SU薬を使わない治療を行っていくなど、目指すビジョンや目標もはっきりとしていったのです(第5回参照)。目指すビジョンや目標がはっきりとしてくることによって、それらに対しての課題の優先順位が明確になるとともに、それぞれの課題に対する効果的な対策を打つことができるようになりました。こうやって、一つ一つの施策の精度が高まりました。

フィードバックで院内のインシデント件数が減少

意外なことに、フィードバックによる成果として特に目に見える形で現れたのは、院内のインシデント件数の減少でした。

 

日本のみならず世界の入院中のインシデントレポートを見ると、インスリン等の糖尿病治療薬に関連した低血糖によるトラブルは少なくありません*。当院でも、病院長や医療安全委員会からのフィードバックには「低血糖トラブルを減らすように」というものが含まれていました。

*日本糖尿病学会―糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会―『糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告』 http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/60_826.pdf

 

医療安全委員会と一緒に院内の調査してみると、低血糖のトラブルの要因として各診療科のインスリンのスライディングスケールが多種多様であることが大きく影響していることがわかりました。複数のスライディングスケール伝票があるために、病棟の看護師さんたちが日々混乱する原因となり、実際にインシデントに繋がることさえあったのです。

 

そこで、病院長から許可をもらって、糖尿病内科と看護部の主導で、全診療科のインスリンのスライディングスケールを全面的に見直すことにしました。

 

各診療科で伝統的に使用されてきたほとんどのスライディングスケールを廃止し、4パターンに限定。しかも、糖尿病内科以外の診療科が使用できるのは、そのうちの2パターンだけに限ることにしました。

 

病院全体の業務にかかわる抜本的な変更ですから、多くの診療科からクレームが来るのではないかと気を揉みましたが、蓋を開けてみると、さほどのトラブルもなく拍子抜けするほどあっさりと導入されていきました。これも、病院長や医療安全委員会が「スライディングスケールを変更するから、しっかり遵守するように」という、通達を出して周知徹底してくださったお蔭だと感じています。トップが明確な指示を出すと、スムーズに指示・伝達が進んでいくのです。

 

その後院内での低血糖に関するインシデントは大幅に減り、病院全体でより安全性の高い治療が行えるようになったと感じています。

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地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

佐藤 文彦

中央経済社

すべての病院で、「医師の働き方改革」は可能だという。 著者の医師は「医師の働き方改革」を「コーチング」というコミュニケーションの手法を用いながら、部下の医師と一緒に何度もディスカッションを行い、いろいろな施策を…

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