
不況期になると、国が景気対策としてしばしば行う「公共投資」。失業者たちが仕事に就くことで収入を得て消費をはじめるのをきっかけに、そこにまた需要や消費が生まれ、経済がどんどん上向いていきます。しかし実際には、あまりにも規模の大きい「大不況」になってしまうと、公共投資の効果はなかなか得られません。なぜでしょうか? 不景気になると国が実施する「公共投資」「減税」といった景気対策のメリット・デメリットともに、実際の経済に及ぼす効果を、経済評論家・塚崎公義氏が平易に解説します。
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「不況期には穴を掘れ」といったケインズ
アダム・スミスは「経済のことには王様は手出し口出しをせず、神の見えざる手に任せるべきだ」といいました。ケインズは、アダム・スミスの経済学を基本的には認めていましたが、それを微修正しよう、と主張した人です。
「アダム・スミスの経済学は〈神の見えざる手に従え〉というが、神様も苦手なことがある。景気が悪いのをよくするのは苦手だから、政府がやらなくては」というわけですね。
「景気が悪いときには、政府が失業者を雇って穴を掘ったり埋めたりさせろ。そうすれば、雇われた元失業者が給料をもらって消費をするから、景気がよくなるはずだ!」
私たちの多くは「不況期には穴を掘れ」ではなく、「不況期には〈公共投資〉として橋や道路を作れ」というふうに覚えていると思いますが、それには2つのメリットがあるのです。橋や道路が使えるようになるという効果と、景気がよくなるという効果です。
もちろん、穴を掘ったり埋めたりさせる代わりに、橋や道路を作らせるほうがいいに決まっていますが、仮に穴を掘ったり埋めたりさせるだけでも、景気をよくするという効果はある、ということをケインズはいいたかったのでしょう。

公共投資で得られる「乗数効果」…簡単に説明すると?
公共投資をすると、政府から発注を受けた建設会社が労働者を雇います。失業していた人が建設労働者として雇われて給料を受け取ると、「そうだ、テレビが壊れているからテレビを買おう」という人が増えるかもしれません。
そうなると、テレビのメーカーが「最近はテレビが売れるから、失業者を雇ってテレビを増産しよう」と考えるので、ここでも失業者が雇われます。テレビのメーカーが「増産のために、新しい工場を建てよう」と考えれば、鉄やセメントや設備機械が売れるので、鉄やセメントや設備機械の会社が、増産のために失業者を雇うかもしれません。
雇われた人が給料をもらったら、今度は居酒屋に行くかもしれません。忙しくなった居酒屋は、学生アルバイトを雇うかもしれません。そうなると、バイト代を受け取った学生がゲームを買うかもしれません。ゲームが売れたゲーム会社が失業者を雇ってゲームを増産するかもしれません。
このようにして、最初に建設会社が雇った失業者の何倍もの失業者がさまざまな会社に雇われていき景気がよくなる、というわけですね。これを「乗数効果」と呼びます。
このように、公共投資は素晴らしいものなのですが、公共投資の難点としては「財政赤字が増えてしまう」「無駄な道路等が作られる場合も少なくない」といったことがあげられます。
不況のときには税金を払う人が少ないのに、政府が公共投資を増やしたら、資金が足りなくなってしまいます。「資金が足りないなら、借金をしても公共投資するべきだ」という意見が出るのは、こうした乗数効果を狙っているからなのですね。
日本の政府も、景気が悪くなると借金をして公共投資を増やす場合が多いので、いまでは巨額の借金を抱えています。だから日本政府が借金を返すために消費税が増税されたりするわけです。
無駄なものが作られる場合も実際にあるようですが、ケインズがいうように、それでも景気をよくする効果はありますから、ご心配は無用です。もちろん、無駄でないものが作られるほうがいいに決まっていますが。