Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アートと科学の親和性が高いという事実

アートとサイエンスの関係性

 

アートとサイエンスの驚くべき関係性もお伝えしたいと思います。水と油のような世界と思われがちなアートとサイエンスについて、お互いにどう共鳴させていくかという事例です。

 

秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)
秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)

まず、サイエンスから。ニュートンの万有引力の法則のもとになる「木からリンゴが落ちた」というエピソードは、多くの人にとっては既知の話でしょう。ニュートンは「そもそもなぜ物体が木から落ちるのだろう」と、それまで当然と見なされてきた常識を疑うことで「常識」を「驚くべき新事実」に変換したのです。

 

コペルニクスの地動説も、その当時としてはありえない発想でした。しかし、コペルニクスは何かのきっかけで、古代ギリシャのピタゴラス派が唱えていた地動説の事実に気づいた。さらに、地球が太陽の周りを周回しているとする仮説に従い、様々なことを検証していったのです。その結果、地動説ですべて証明できることがわかったのです。

 

実際のところ、一流の科学者の思考回路は、一流のアーティストのそれと、とても似ています。以前、私は、最先端の科学者とアーティストを引き合わせる会合に出席したことがありましたが、そこで見た光景は、驚くべきものでした。

 

一見、直感や感性を活かすアーティストと、論理とデータを活かす科学者では、水と油のような関係に見えますが、両者はすぐに意気投合したのです。科学者が言うには、自分たちが普段、当たり前に考えていることをどんなに丁寧に話しても、なかなか一般の人には理解されないが、アーティストは彼らの思考をすぐに理解してくれるというのです。逆に一般的にわかりにくいアーティストの言葉であっても科学者には理解できるのも、両者でイメージを媒介にしたコミュニケーションが存在するからです。

 

《モナ・リザ》で知られるレオナルド・ダ・ヴィンチは、優れた科学者でもありました。科学とアートには「直感」や「ひらめき」「ビジョン」といった、同じような思考が求められ、それらはイメージを媒介することが多いのです。

 

アートと科学の親和性が高いという事実は、アメリカで実際にアートを利用して科学を視覚的に捉え、共感してもらえるような形で伝える試みが始まっていることからもわかります。鑑賞者に直感的、感情的な反応をもたらして、言葉では説明しきれないアイデアでもアートを使うことで言葉よりも正しく伝達できるだけでなく、記憶にも残りやすいことがわかったためです。

 

創造性の研究を専門とする心理学者ミハイ・チクセントミハイの著書『クリエイティヴィティ――フロー体験と創造性の心理学』(世界思想社)の中に次のような記述を見つけました。

 

「私たちの多くは、音楽家、作家、詩人、画家といった芸術家たちは空想的な側面が強く、科学者、政治家、経営者たちは現実主義者であると、当然のように思っている。日常的な活動に関しては、これが真実なのかもしれない。しかし、人が創造的な仕事を始めると、すべてが白紙に戻ってしまう――芸術家は物理学者と同じくらい現実主義者となり、物理学者は芸術家と同じくらい創造的になり得るのである」

 

科学者には芸術家のような創造的な才能が必要で、芸術家にもまた科学者のような現実主義的な視点が必要なのです。この両方を使えるのが、真の科学者であり、真のアーティストであるといえます。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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アート思考

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秋元 雄史

プレジデント社

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