終活という言葉が広まり、遺言書をはじめとした相続対策への注目が高まっています。子どもや親には自動的に相続権が付与されますが、相続人となる人が誰もいない場合、どのような選択肢があるのでしょうか? 本記事では、大坪正典税理士事務所の所長・大坪正典氏が、様々な相続事例を紹介し、生前対策の重要性を解説します。

がんで亡くなった女性…遺言書の内容に驚愕

◆相続人がおらず、世話になった人にすべての財産を遺贈したい場合

 

一人も相続人がいないような場合には、遺産は最終的に国のものになってしまいます。「そのような事態は自身の気持ちや信条に反する」というのであれば、遺言書で何らかの意思表示をしておく必要があるでしょう。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

例えば、生前に世話になった人がいて恩に報いたいのであれば、その人に財産を遺贈するのもよいでしょう。また、何らかの形で社会貢献をしたいのであれば、公益的な活動を行っているNPO法人や慈善団体などに遺産を寄付することも考えられるでしょう。

 

恵まれない子供たちのサポートやケアを行っている福祉施設などに寄付して、その子供たちの未来に、自分の財産がいささかなりとも役立つことを信じつつ世を去ることも、悪くない選択であるように思われます。

 

また、そうした遺言が確実に執行されることを望むのであれば、公正証書遺言の形にして、弁護士などの専門家に遺言執行人を委ねておくことが適切かもしれません。

 

◆遺言書でペットに財産を渡すこともできる

 

また、現在一人暮らしをしながら、ペットを飼っている人であれば、自分の死後、できることならその面倒を誰かに引き続き見てもらいたいと強く望むはずです。その場合には、相続財産をペットの面倒を見てくれる個人、あるいは団体に遺贈するという選択肢が考えられます。

 

また、遺贈ではなく、「信託制度」を利用する方法もあるでしょう。信託とは、他人から財産を預かった者が、その財産を一定の目的に従って管理、運用、処分する仕組みです。財産を預ける者を「委託者」、財産を預かる者を「受託者」といいます。

 

具体的には、受託者に遺産を預け、そのお金を管理、運用、処分してもらってペットの面倒を見てもらえるような仕組みを整えるわけです。

 

実際、アメリカでは、2010年にがんで亡くなった資産家の女性が、マイアミビーチにある評価額830万ドルの大邸宅を「自身の女性秘書と愛犬チワワに使わせる」との遺言とともに、チワワには別途300万ドルの信託財産を残した例が報道されています。もっとも、この女性の唯一の相続人である息子は、母親からの遺産が自分に対して100万ドルしか残されていないとチワワを相手に訴訟を起こしています。

 

また、やはりアメリカのケースですが、11億円の遺産を飼い主からもらったマルチーズが2010年に亡くなっていたというニュースが伝えられています。この犬は、飼い主の女性が亡くなった後は年間10万ドルをかけてホテルで生活を送り、食事代10万円、美容院代60万円以外はほとんどがその警備費用に充てられていたそうです。

 

このように海外では死後、ペットのために遺産を残すことが当たり前のように行われています。今後、日本でも同様の例が増えていくかもしれません。

「酒を飲まされて、つい…」で書いてしまった遺言書

◆一度書いた遺言書を撤回したい

 

なお、遺言書は何度も書き直すことができます。また、書き直した遺言書を撤回して、元の遺言書に戻すことも可能です。この遺言の撤回に関して、過去に次のような興味深いケースがありました。

 

奥さんに先立たれた高齢の高海(仮名)さんは、実子がいなかったため親戚の葉隠政美(仮名)さんの長男の伸吾さんと養子縁組し、財産について養子の高海伸吾(仮名)さんに相続させ、親戚の葉隠政美さんに遺贈する旨の公正証書遺言を作成していました。ところが、二人が知らないうちに、その遺言書とは別に、40代の見知らぬ女性甲に全財産を遺贈するという内容の遺言書がつくられていたのです。

 

二人が調べたところ、甲は、体に不自由がある高海さんの身の回りのお世話をしていた派遣会社の社員でした。

 

高海さんは、とても気前の良い方でしたので、甲に対しても、奥さんの形見である着物をはじめ、二人に気付かれないようにたくさんの高価な品々を譲り渡していたようです。そして、いつの間にか高海さんと甲は、二人で世界旅行にまで出かけるような関係となっていったのです。

 

高海さんが、「全財産を甲に遺贈する」旨の遺言書を書いたのは、体調を崩し、部外者の立ち入りが禁じられた介護施設に入院したときでした。もしかすると高海さんが事前に甲に連絡していたのかもしれませんが、そこに、付き添いの目を盗むように甲が入り込んできたのです。

 

「情に絆(ほだ)され、酒を飲まされて、つい…今は、こんな遺言書を書いてしまったことを、とても後悔している」と高海さんは二人に打ち明け、甲に自分の財産が渡らないように何らかの対策をとってほしいと求めてきました。

 

そこで、高海さんに、甲に渡してしまった自筆遺言書を撤回する旨の遺言を改めて書いてもらうことにしました。これで、甲に渡してしまった自筆遺言書は効力を失うことになり、万が一の際にはこの遺言書の通り、当初作成した公正証書遺言書の内容に従って二人が財産を受け継ぐことが可能となりました。とはいえ、甲がどんな手を使っているのか分かりませんので、あらためて公正証書遺言にすることが間違いないと思います。

 

なお、この遺言書サンプルを見れば分かるように中身はいたってシンプルです。何度も遺言書を書いてしまったが、「やはり前の遺言書に戻したい」と思ったときには、ぜひ、参考にしてみてください。

 

遺言書の記載例
相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版

相続争いは遺言書で防ぎなさい 改訂版

大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

最新事例を追加収録! 「長男だからって、あんなに財産を持っていく権利はないはずだ」 「私が親の面倒を見ていたのだから、これだけもらうのは当然よ」……。 相続をきっかけに家族同士が憎しみ合うようになるのを防ぐ…

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