新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。都心部の大型書店は休業を余儀なくされ、出版業界も撃沈かと思われたが、売り上げ好調で予想外の健闘をしている。いま出版業界で何が起きているのか。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

紙とデジタルで相乗効果を上げるモデルを作る

取材を申し込んだところ、詳細については時期的なこともあり公表は控えたいという。しかし文書による回答により、担当の橋本邦彦取締役の考え方を知ることができた。

 

まずは、『地球の歩き方』をどう評価するのか──。

 

「単なる観光情報のみならず、その背景となる文化や歴史も丹念に記述する姿勢は、学研の出版方針と合致している。誰もが知っているブランドであり、事業展開の可能性は大きい。ただ、デジタル的な存在感はまだ強いとは言えず、今後テコ入れの余地は十二分にある」

 

新会社(新事業)への抱負は──。

 

「紙とデジタルで相乗効果を上げていくモデルを作りたい。出版活動は当然続けるが、そのコンテンツをデジタルやグローバルに展開していく。高齢者向けバーチャルツアー開催などグループ各社とのシナジーは考えられる。それを通じて学研グループが海外に目を向けていく一つの触媒になれば……」

 

上記のコメントからひしひし伝わってくるのは、デジタル展開への強い意欲である。学研プラスは2017年に、電子出版及びデジタルサービス事業に特化した企業と、教育のICT化ノウハウをもつ企業を吸収合併した。となると、自ずと『地球の歩き方』の生かし方が見えてくる。

 

「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」とは、進化したデジタル技術を導入することで社会や産業を活性化させる動きをいう。もちろん、単なる電子書籍化を意味するのではない。ちなみに『地球の歩き方』シリーズは、全122タイトルの7割方の電子書籍化を終えている。

 

新聞業界などで進んでいるDXから勝手に推測すると、たぶんこういうことだ。

 

三ツ星レストランなどを紹介する場合、紙では、気の利いた文章と一品料理や店舗の写真から想像してもらうのが限界だ。しかし将来的には、インターネット上に記事と連動した動画が配信され、充実したコンテンツにより読者はビジュアルでもその店を体感することができるようになるだろう。

 

巻末の「旅の言葉」(その国の言語によるホテル予約や道順の聞き方)などは、最もデジタル化の恩恵に浴するところ。紙の上ではうまく伝わらなかった発音やイントネーションを、動画の肉声が教えてくれる。

 

このように、読者は紙と映像を自由に生き来することで、その国を深く正しく理解できるようになる。その延長線には、体力的に海外旅行が難しくなった高齢者や身体障害者のためのVR(バーチャルリアリテイ=仮想現実)トラベルも含まれるかもしれない。

 

これがDXの世界。本に新たな付加価値が加わる。出版不況を脱出するカギはこのDXが握っているともいわれる。

 

学研グループは長期経営方針で、2030年の収益構造を「デジタル40%超・グローハル30%超」とした。『地球の歩き方』への同社の期待値は、一般の考えをはるかに超えて大きいものだと思う。

 

平尾 俊郎
フリーライター

 

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