(c) Steve Lazarides 2019

正体不明の画家・バンクシー。サザビーズオークションで自らの作品『風船と少女』が1億5000万円と高額落札された瞬間、「意図的に」本作を裁断したシュレッダー事件(2018年)で注目を集めたほか、今年の夏にはネズミを地下鉄に描く動画が大きく報道されるなど、何かと世間を騒がせている。書籍『BANKSY CAPUTURED』(KKベストセラーズ)では、謎に包まれたアーティストがその姿を初めて公開した。バンクシー研究家の第一人者、東京藝術大学大学院教授の毛利嘉孝教授が解説する。今回は第3回目。

「現代美術はよくわからない」に対なすバンクシー作品

⬛︎バンクシー作品の真のメッセージとは何か?

 

――現代美術は難しいというイメージがあります。バンクシーのメッセージはどうでしょうか?

 

(毛利)現代美術は、一般的に難解だと思われています。専門的な知識がないと理解しづらい面もあるでしょう。

 

作品は「それまで現代美術のなかで議論されてきた何かについての何か」だったり、過去の現代美術を参照することで初めて理解できる……といったゲーム化した側面があります。ルールが複雑になり過ぎてしまい、ルールを知らない人、これまでの現代美術の歴史を知らない人には、何をしているのか、何が面白いのか分からない……というわけです。

 

対して、バンクシーの世界は非常にわかりやすい。大きな特徴はアイロニーやブラック・ユーモアですが、基本的にそのメッセージはかなり明確です。「英国文化やアートの歴史を知っていればとわかる」とか「大人だから伝わる」といったハードルの高いものではない。

 

インスタグラムやツイッターなどのSNSから発信されるコメントによってバンクシーのメッセージはさらに補強され、よりわかりやすくなります。

 

――書籍『BANKSY CAPUTURED』から読み取れるバンクシーのメッセージは何だと思いますか?

 

(毛利)「ストリートを取り戻せ(リクレイム・ザ・ストリーツ)」ということではないでしょうか。これは、1990年代から2000年にかけて英国で起きた若者の社会運動の名称であり、スローガンでもあります。

 

「ストリートを取り戻せ」は、もともと資本主義の象徴である自動車を追い出して、歩行者が道を取り戻そうとする環境運動でした。

 

本来、都市や道路の主人公は「我々」なのに、いつの間にかその権利を奪われている。行政や警察、大きな会社や資本が都市や道路を使っており、今や自分たちのような「名前を与えられない無数の人々」は、空間から排除され、街を自由に使うことができなくなっている、というわけです。「都市は誰のものでもなくて、むしろ、自分たち匿名の人間こそが都市の主役ではないか。都市を、空間を、都市の景観を取り戻そう!」というのが運動のメッセージでした。

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BANKSY CAPTURED

BANKSY CAPTURED

監修:Steve Lazarides
連載解説:毛利嘉孝

KKベストセラーズ

遂にバンクシーをとらえた衝撃の話題作品集。 覆面アーティスト・バンクシー(Banksy)と11年間仕事をともにしてきたスティーブ・ラザリデス(Steve Lazarides)による本人写真や未発表作品などを公開。謎に包まれたバンク…

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