本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『スポーツビジネス・ロー・ニューズレター(2020/12/4号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

3. 独占禁止法上の留意点

上記2.の通り、球団としては、2020年の経営状態を反映させて年俸の減額提示をすること、野球協約・統一契約書上の手当がない中で2021年の試合数減少等の事態が発生するリスクを避けるために本件減額条項を設ける等の対応(以下「本件減額対応」といいます)を検討している状況と考えられますが、このような状況下における年俸交渉において、優越的地位にある球団が課す制度・義務等が選手に対して不当に不利益を与える場合には、独占禁止法上問題となり得る点に留意する必要があります。すなわち、本報告書においては、プロ野球選手のような「個人として働く」役務提供者※11に対して取引上の地位が優越している発注者が、役務提供者に不当に不利益を与える場合に、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)の観点から、独占禁止法上問題となり得ると指摘されています。

 

※11 本報告書6頁。

 

この点に関し、独占禁止法2条9項5号ハでは、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」が、優越的地位の濫用に該当すると定められています※12。そして、取引上の地位が相手方に優越している事業者による対価の決定が、優越的地位の濫用に該当するか否かの判断に当たっては、「対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか」などといった点が考慮されるとされており※13、また、「対価が取引条件の違いを正当に反映したものであると認められる場合には、正常な商習慣に照らして不当に不利益を与えることとならず、優越的地位の濫用の問題とならない」とされております※14

 

※12 公正取引委員会作成に係る「優越的地位の濫用に関する独占禁止法の考え方」(2017年6月16日改正)(以下「優越ガイドライン」といいます。https://www.jftc.go.jp/hourei_files/yuuetsutekichii.pdf)では、「取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対して、一方的に著しく低い対価・・・での取引を要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、正常な商習慣に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる」(優越ガイドライン21頁)、「取引上の地位が優越している事業者が、一方的に、取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、当該取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となる。」(優越ガイドライン25頁)と記載されています。

 

※13 優越ガイドライン22頁。

 

※14 優越ガイドライン22頁。

 

そのため、例えば、球団側が選手に対して、選手との十分な協議を行わず、一方的に、選手契約に本件減額条項を盛り込むことに合意しない場合は選手契約を締結しない(自由契約とする)旨を通告し、選手が自由契約となることを回避するために球団側の要求を受け入れざるを得なかったと評価されるような場合や、試合数の減少を理由とした減額金額が著しく高額であり、試合数の減少(及びその影響による収益の悪化)という状況を正当に反映したものといえないような場合は、球団側の対応は優越的地位の濫用に該当する可能性がある点には留意する必要があると考えられます。

 

一方で、例えば、本件減額対応に当たって選手との間で十分な協議が実施されており、且つ、減額金額が当該シーズンの個人成績等も考慮された合理的なものである場合は、球団の対応は優越的地位の濫用に該当しない可能性が高いと思われます。

 

以上より、球団が年俸交渉において本件減額対応を行う場合には、優越的地位の濫用に該当するリスクに十分に配慮する必要があることから、法律の専門家の判断を仰ぎつつ、慎重に年俸交渉に対応することが望まれます。

 

 

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   稲垣 弘則
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