病院を経営していた父親は、心のよりどころだった母親が急逝すると、後を追うように亡くなりました。そこで、父の病院に医師として勤務する兄妹のもとに降りかかったのが、父親の「婚外子」の問題です。まったく面識はないものの、親族からいろいろな話を聞かされており、苦労した父の遺産を分け合う気持ちにはなれません。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

「両親が築いた財産は、1円たりとも分けたくない」

叔父や祖母から聞いた話によると、非嫡出子の母親は非常に計算高い人で、総合病院を経営している父親の実家から、すでに相当の大金を引き出しているとのことです。それを考えると、なおさら父親の財産を分ける気持ちにはなれません。一円だって払いたくないというのが偽らざる本音なのです。

 

 

ここで、佐藤さんと妹が置かれている状況と、心情をそれぞれ整理してみます。

 

【置かれている状況】

●父親は遺言書を残していなかった

●非嫡出子の兄も法定相続人であり、兄なしに相続手続きを終えることはできない

 

【佐藤さんと妹の心情】

●一面識もない非嫡出子に対し、きょうだいという意識は持てない

●この問題について祖父母と叔父から話を聞かされ、非嫡出子には憎しみしか感じない

●両親が築いた財産を、できることなら1円たりとも分けたくない

 

上記から考えると、感情通りの着地を見出すことは不可能だとわかります。非嫡出子であっても相続人ですから、父親の財産を相続する権利を持っているわけです。従って、その人抜きでは、どうやっても相続手続きが進みません。

 

長年のわだかまりのため、感情的になるのも理解できますが、だからといって、まったく遺産分割せずに了承してもらうのは無理があります。万一、話し合いがこじれて裁判となれば、非嫡出子には遺留分である6分の1を財産を渡すことになりますから、まずは佐藤さんに、その覚悟を固めてもらうようお話ししました。

非嫡出子である兄のため、用意した「現金」

財産の整理と財産評価が完了したため、いよいよ非嫡出子の異母兄との話し合いを開始することになりました。まずは手紙で、筆者の会社が分割協議の委任を受けていることをお知らせし、連絡を取って合う段取りをつけました。

 

何度かやり取りをするうちに相手の理解を得ることができ、その結果、法定割合にくらべるとかなり少ない、数百万円の現金で折り合いをつけることができたのです。無事に遺産分割協議書に実印をもらい、筆者も役目を果たすことができました。

 

非嫡出子の兄は、生まれたときから自分の父親はいないものとして生きてきたといいます。援助もなく、愛情も感じたことがないと言い切るところから、憎しみの深さが窺われました。今回の分割の話も、こちらの対応が公平だったから納得したとのことで、こちらの対応次第では協力するつもりはなかったと、あとから打ち明けてくれました。

 

これらのことからもわかるように、法的には非嫡出子も同じ相続人であることを理解し、財産を分ける覚悟が必要です。「一切渡さない!」などと感情を爆発させてしまえばトラブルは避けられません。

 

法的な公平性を意識した交渉をしつつ、依頼人である相続人にだけ都合のいい遺産分割は行わないことを説明し、理解してもらわなければなりません。また、感情を引き出してしまうと、収拾がつかない事態になりかねないため、あくまでも相続財産の分割だけに話をとどめておくことも重要です。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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