大学病院の教授の権威は失墜し、もはや野心溢れる若手医師が目指す存在ではなくなったという。健康診断や当直などのアルバイトで食いつなぐフリーター医師も出現した一方で、『ドクターX』で有名になった、専門的なスキルを売りにして腕一本で高額な報酬を得るフリーランス医師は、病院にとって不可欠となっています。100以上の病院を渡り歩いた現役麻酔科医が知られざる医療の現場、医師たちの本音を明かします。本連載は筒井冨美著『フリーランス女医は見た医師の稼ぎ方』(光文社新書)の一部を抜粋、再編集したものです

僻地の医師不足解消を目的の自治医科大の学費はタダ

(2)自治医科大学(自治医大)出身県に戻ることが義務

 

自治医科大学とは、僻地の医師不足解消を目的に、都道府県の合同出資で設置された私立医大であり、総務省(旧自治省)の影響が大きい。定員は120人。各都道府県は2~3人の合格枠を持ち、県の判断で合格者を決定する。よって、合格者の偏差値レベルは都道府県によってかなり違いがあり、あたかも「高校野球の甲子園大会出場校における大阪代表と鳥取代表」のような格差がある。

 

実際、「大阪府や神奈川県には、もはや大した僻地はないから、自治医大枠は他県に譲るべきではないか?」との意見は根強い。また、九州某県は「統計学的にあり得ないぐらい、男子学生ばかり合格」しているが、2018年に大騒動となった「医大入試における女性減点問題」では話題にならなかった。

 

入学時には約40万円の支度金が支給され、学費はタダ(正確には貸与)、生活費は貸与型奨学金で賄うことが可能である。防衛医大と同様に、地方都市(栃木県下野市)での全寮制の生活(こちらは個室)となるので、生活費もさほど必要ではないだろう。カリキュラムも他の医大と大差はなく、卒業後は出身県での9年間(留年すると1年半追加)の勤務(うち、半分は僻地)が義務付けられている。財布にやさしく、出身県に戻ることが義務付けられているので、地方の親御さんにとっては、実はとてもありがたい医大ともいえる。

 

しばしば問題になるのが、出身県の違う医師同士の結婚である。6年間、キャンパスライフのみならず寝食を共にするので、それなりの数のカップルが誕生するが、「北海道出身のA君と長崎県出身のB子さん」が結婚した場合、最悪9年間の別居生活になってしまう。まあ、実際には県同士で話し合って、「別居3年、北海道に2人で3年、長崎に3年」レベルで手を打つことが多いらしい。

 

しかしながら、この卒後9年間は女性の出産適齢期でもある。妊娠した女医を離島などの僻地に派遣することは非常に困難であり、「女医の権利保護」と「僻地医師派遣事業」の兼ね合いにはどの県も悩んでいる。よって、「じゃあ、ウチは男子学生しか採用しない」となる県も出現するのだ。

 

勤務拒否の場合、最大約2200万円の返還金が必要である。

 

(3)産業医科大学(産業医大)北九州にある「産業医」育成校

 

産業医科大学とは、主に産業医の養成を目的とした私立医大であるが、厚生労働省(というか旧労働省)の影響が大きい。定員は105人。校舎は福岡県北九州市にあり、寮はあるが必須ではない。カリキュラムも産業医学関連の科目が多いが他の医大と大差はなく、防衛医大生や自治医大生に比べて、かなりふつうの大学生生活が送れる。

 

「9~11年間、産業医として働くことが義務」とされているが、実は「大学病院や労災病院(旧労働省系の病院)勤務、大学院進学も含まれる」「産業医は実質2年間でも可」なので、卒業後も防衛医大や自治医大に比べて、わりとふつうの医者人生を歩む。

 

かつては、大学入試においてセンター試験を利用し、入試日程も国立大と同じであり、学費の実質的負担も国公立並みであり、受験対策も国公立と似ていた。現在では独自の入試日程を設定するようになり、施設費やら実習費などの名目での実質的学費負担が上昇し、その合計額は6年間で約1100万円となった。

 

卒後義務を拒否する場合には、最大約1900万円の返還金が必要である。

 

筒井冨美
フリーランス医師

 

 

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