
日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。
社員が社長のことを本当に信頼できるか
(3)社長に伝わるという感覚
中小企業は、社長こそがすべてだ。社長でなければ事業の方針を決定することはできない。社員の抱く不安や不満も社長しか解決することはできない。
人は、不安に対してしかるべき人に話を聞いてもらえるだけでも満足できる。中小企業にとっては、社長こそ社員が声を聞いてほしい存在だ。「社員の声はいつも聞いている」と考えている社長もいるだろうが、本当に社員の声は届いているのか自問してほしい。
そもそも中小企業の社長は、自分の意見を社員に述べることは得意だが、聞くことは不得意だ。「これが社員も求めていること」と話している内容が社員の本音とまったく違っていることなど、よくあることだ。
たとえば、退職する理由をその社員に質問しても、「やりたいことが見つかったので」などと曖昧模糊とした回答しか得ることはできないだろう。誰が見ても取り繕ったような回答をされるのが一般的だ。社員が退職理由をきちんと説明できる会社は、やはりコミュニケーションがしっかりできている。
中小企業において、労働事件が起こるかどうかは、制度の問題ではない。社員が社長のことを信頼できるかに尽きる。「この社長を尊敬できる」と社員が感じれば、少々の不満があっても耐えることができる。逆に「こんな社長の下では働けない」となれば、些細な不満も顕在化する。それが中小企業というものだ。
社長と社員の信頼関係のはじまりは、社長が社員の話を「聞く」ことからはじまる。社員との関係が良好な社長は、社員の声を聞くことを重視している。社長は、社員の声を聞く機会を定期的に確保するべきだ。社員の声を聞くというと、社員旅行や飲みに行くことなどをイメージするかもしれない。もちろんそういった機会を否定するわけではないが、誰しも勤務時間外に気軽に飲みに行けるわけではない。とりわけ育児で忙しい社員にとっては、勤務時間のほかに時間を確保することはむしろストレスになるだろう。
そこで参考にしていただきたいのが、勤務時間内の定期的な面談だ。最近では1on1(ワン・オン・ワン)と呼ばれることもある。社長あるいは上司が社員と定期的に面談する機会を持ってみるといい。2週間に1度、15分くらいでいい。悩んでいることや困っていること、あるいは将来の展望などなんでもいい。社員が社長に聞いてほしいことをつらつら話してもらうイメージだ。
最初はうまくいかない。「社長から急に面談なんて何事。なにか問題を起こしたか」という不安からはじまる。それでも繰り返しやり続けることだ。たとえば、私のコンサルティングでは、面談方法を確立して「フィードバックシート」というものを社員に作成してもらっている。これは面談を通じて成長を促すものだ。
1on1は、社員の内省を深めて社長との個人的信頼を成熟させていく。「この社長には伝わる」という実感があれば、社員が社長の背中に向けて矢を引くことはない。
島田 直行
島田法律事務所 代表弁護士
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