日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。

雰囲気の明るい会社は職場の雑談が多い

「将来を描く」という点からすれば、経営計画は絶対に必要だ。その場合、5年間という中期スパンの計画をきちんと作成するべきだ。時代の変化が速いので10年後のイメージはできずとも、5年後であればぼんやりながらもイメージできるはずだ。社長の魂の入った経営計画書は社員の夢に彩りを施す。経営計画を発表している会社としていない会社では、迫力がまったく違う。

 

島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)
島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)

「事業の継続」という点で忘れられないのが事業承継である。社長がいつまでも働けるわけではない。中小企業の事業承継は、バトンリレーのようなものだ。次にバトンを誰が受け継ぐのかをはっきりしておかなければ、社員としても将来に不安がある。これまで少なくない中小企業が事業承継に失敗して事業自体が行き詰まっている。事業承継は、社長にとって最大の事業と言っても過言ではない。

 

(2)5メートルのつながり

 

雰囲気の明るい会社は、職場の雑談が多い。とくに半径5メートルにいる人との雑談が日頃から頻繁に行われている。これを「5メートルのつながり」と私は勝手に呼んでいる。

 

人間同士の信頼は、自己開示の積み重ねによって生み出されてくる。自分のことを開示しないのに、相手だって開示することはない。人は、雑談するなかで自然と自分のことを口にして相手のことを知るようになる。

 

半径5メートルの円が少しずつ増えて重なっていくと、会社全体の雰囲気が変わる。いきなり会社全体の雰囲気を変えようとしても無理。まずは5メートルという小さなエリアの関係をよくすることからはじめるべきだ。

 

私が愛する二宮尊徳の言葉に「積小為大」というものがある。「大きなことをなすのは、小さなことの積み重ね」という意味だ。これは会社の雰囲気にも通じることだ。

 

このところ、「事務処理能力は高いけれど協調性がない社員」に関する相談を受けることが増えている。社長は、協調性の欠如を個人の性格と結論づけていることが多いが、本当にそうであろうか。問題の本質は、雑談ができるような環境づくりをしていない社長の責任かもしれない。

 

人は、相手の自分に対する感情をなんとなく察する。社長が「この社員はなんとなくつきあいにくいな」と感じていると、社員も同じように感じるものだ。社員が冷たい態度をとっても、とりあえず声がけを続けるだけで何か変わってくる。しだいに心を開くかもしれないし、逆に「鬱陶しい」と退職してしまうかもしれない。いずれにしても変化は来る。

 

その変化を社長は受け入れるほかない。

 

このようなとき、社長が「社員のことは社員同士で解決してくれ」という態度では、すべての社員の信用を失うことになる。煩わしい問題だからこそ、社長が率先して対応しなければならない。

 

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