NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、絶望することなく忍耐の生活を送る。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを浴びる存在となる。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

オロナイン軟膏のCMに大抜擢のワケ

「南口キクノといいますねん」

 

「浪花千栄子(なにわちえこ)でございます。私の本当の名前はなぁ、南口キクノといいますねん」

 

と、彼女は微笑みながら語りかける……。

 

昭和40年代頃のテレビで頻繁に流れていたオロナイン軟膏のCMである。いまも古い民家の軒先に、そのホーロー看板を目にすることがある。当時を知る人には、あの柔らかい大阪弁のイントネーションが耳に蘇ってくるだろう。

 

語呂合わせと思いきや、南口キクノ(なんこうきくの)は本当に彼女の本名だった。

 

一説によれば、メーカーの社長が千栄子と会った時に「私の本名、南口キクノって言いますんや」と、CMと同じセリフで挨拶をされて、

 

「彼女しかいない」

 

と、その名にひと目惚れし、出演を求めたという。

 

青山誠著『浪速千栄子』(角川文庫)
青山誠著『浪速千栄子』(角川文庫)

しかし、この時すでにオロナイン軟膏のCMには、テレビ時代劇『とんま天狗』の主人公である大村崑がイメージ・キャラクターに使われていた。視聴者には好評で、売れ行きも順調に伸びている。降板させる理由が見つからない。

 

関係者は大村をどうやって説得すればいいか、頭を悩ませながら、ことの経緯を彼に説明しようとする。しかし、彼女の本名を聞かされたところで、大村の顔から笑みがあふれ、

 

「その名には勝てない」

 

そう言って、あっさり降板を了承したという。

 

浪花千栄子は戦前から、映画や舞台で活躍するベテラン女優だった。昭和20年代には花菱アチャコとの名コンビによるラジオ・ドラマが人気となり、知名度が上昇。映画やテレビでは名脇役として欠かせない存在になっていた。

 

しかし、彼女の顔と名がこれほど知られるようになったのは、やはり、全国各地のテレビで四六時中流れ続けたこのCMの効果が大きい。南口キクノが本名でなければ、その後の女優人生はまた違ったものになっていたかもしれない。

 

次ページ南口キクノ、屈辱の「黒歴史」とは
浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

青山 誠

角川文庫

幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、けして絶望することなく忍耐の生活をおくった少女“南口キクノ”。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを一身に浴びる存在となる。松竹新喜劇の…

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