幻冬舎ゴールドライフオンラインの人気エッセイ『プリン騒動』。結婚、出産、そして離婚…ひとりの主婦が記した壮絶な義両親とのバトル。なぜ彼女は苦しい日々を一冊の本にまとめたのか? 衝撃の実話を、連載にてお届けします。

トントン、部屋のドアをノックする音がした。そして…

間髪をいれずに、二人同時に大きく頷いた。ボストンバッグ一個に、通帳と印鑑と着替えと現金、母子手帳を入れた。行くあては、なかったが何とかするしかないと気丈な自分自身がいた。

 

さて、準備万端。殆どの荷物を置いていかねばならないが、後日取りにくればいいと思いながら車のキーを右手に握り締めた。その手にギュッと力が入る。新たな人生が、これからはじまるのだ。

 

その時、トントン、部屋のドアをノックする音がした。すぐに姑が中に入って来た。そして言った。

 

「行かないで欲しい」

 

あまりにも意外な言葉だったので躊躇した。言っている意味がすぐには理解できなかった。「出て行け=行かないで」では、数式が成立しない。出題が難しいのか、解答する側に能力がないのか。私は強気だった。

 

「出て行けと言われたら、いつだって出て行きますよ! さっき、そう言いましたよね」

 

いつから意地悪い性格になったのかは、予測がついた。売られた喧嘩は買うという考え方は、嫁いでから心の底にいつもある、私流の考え方。そしてたとえどんな相手でも怯まないと言うのも、いつも思っていることである。

 

姑は、さらに頭を下げた。その姿は、決して演技ではなかった。そこまでするならば仕方ないと思った。

 

「分かりました。今回は許します」

と言って、思い留まった。気分はスッキリ晴れることはなく、その後の時間は惰性で過ごした。子供たちは、私が何も言わなくても状況を察してか、安堵の顔で二人仲良く居間にリュックを置いてから、テレビを見はじめた。心配をかけてごめんねと、声に出せずに沈黙の空間で詫びた。

 

それから、舅は私と喧嘩をしても決して「出ていけ」とは言わなくなった。

 

子供たちも、決して「ママ、プリン作って」とは言わなかった。

 

プリン騒動は、一件落着に終わった。

 

私の戦いは、終わらない。

 

【続く】

 

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンライン掲載の『プリン騒動』を再編集したものです。

 

プリン騒動

プリン騒動

風間 恵子

幻冬舎

子育てに奮闘する主婦の衝撃の実話 「ママ、プリン作って」——そんな、我が子の無邪気な一言が、家族バトル勃発の引き金になろうとは……。結婚、出産、そして離婚。 「私の人生捨てたもんじゃあない!」妻として、母とし…

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