
平成バブル崩壊後から、およそ20年以上の長きにわたって続く「ほぼゼロ金利」政策。ご高齢の方は、預金通帳を見るたび「昔はよかったなぁ」と遠い目をしてしまうかもしれません。しかし「ほぼゼロ金利」の状態がここまで長く継続すると、そもそも金利とはなんなのか、わからなくなってしまいそうですね。とはいえ、投資や資産形成は金利の知識なくしては行えません。金利の働きと役割について、元バンカーの経済評論家・塚崎公義氏が平易に解説します。
金融政策によって景気の調節を行う「日銀」
金融政策の基本は、金利の上げ下げによるものであり、その金融政策によって景気の調節をしているのは日銀です。ごく単純にいうと、金融政策は「借金をして工場を建てようか、どうしようか」と考えている企業に、投資を促したり、あるいは思いとどまらせたりするしくみになっています。
昔は「公定歩合」という日銀が定めた金利で銀行に対する貸出を行っていたのですが、いまでは日銀が世の中に資金を供給することで市場金利(銀行間の貸し借りの金利のこと)を下げたり、資金を回収することで市場金利を上げたりしています。
日銀が銀行に資金を供給する手段としては、銀行が持っている国債を日銀が買って代金を支払うのが基本となっており、これを「買いオペ」と呼びます。反対に資金を回収する手段としては、日銀が持っている国債を銀行に売って代金を受け取る、という形になり、これを「売りオペ」と呼んでいます。
バブル崩壊後の長期低迷期によって、金利はゼロである期間が長くなっていますが、本来であれば景気や物価を見ながら市場金利を動かすのが日銀の仕事です。そこで本稿では、ゼロ金利時代ではない「通常時」の金利について解説します。
日銀が市場金利の誘導目標を定めて、その通りに市場金利を誘導すると、銀行は貸出に際しての金利を「市場金利にコストと適正利潤を上乗せした水準」に定めます。
ライバルとの競争ですから、これより高く金利を設定する銀行は金利が高くなりすぎて借り手がいなくなってしまいます。逆にこれより低く金利を設定する銀行は、「もっと高い金利で貸せば儲かるのに」ということになってしまします。
本来であれば、預金金利も市場金利と同じように、市場金利からコストと適正利潤を差し引いた水準に決まります。もっともいまは市場金利がゼロのため、預金金利もゼロになっています。

「金利が高いか否か」はインフレ率との関係で決まる
もしいま、金利が10%だとしましょう。この金利を見て、読者のみなさんのなかには「10%の金利は非常に高いから、いま借金をして工場を建てる会社はないのではないか?」と考える方もいるかもしれませんね。しかし実際はそうとも限らないのです。石油ショックなどが起きてインフレ率が20%と予想される事態になったらどうでしょう? いま借金をして急いで工場を建てたほうが、翌年になってから工場を建てるよりも得になります。
つまり、金利が高いか否かは「インフレ率」との関係で決まるというわけです。金利からインフレ率を引いた値を「実質金利」といいますが、これを適正水準に誘導するのが日銀の仕事なのです。
ちなみに、ここで解説しているインフレ率というのは、過去の物価上昇率ではなく、人々が予想している今後1年間の物価上昇率のことであるため、正確には「予想インフレ率」になります。
つまり、日銀の金融緩和や金融引締めというのは、実質金利を高くするか低くするか、ということであり、金利の基本は「予想物価上昇率と同じ」というわけです。