大学病院の教授の権威は失墜し、もはや野心溢れる若手医師が目指す存在ではなくなったという。健康診断や当直などのアルバイトで食いつなぐフリーター医師も出現した一方で、『ドクターX』で有名になった、専門的なスキルを売りにして腕一本で高額な報酬を得るフリーランス医師は、病院にとって不可欠となっています。100以上の病院を渡り歩いた現役麻酔科医が知られざる医療の現場、医師たちの本音を明かします。本連載は筒井冨美著『フリーランス女医は見た医師の稼ぎ方』(光文社新書)の一部を抜粋、再編集したものです

医学部合格に2~3浪当たり前、予備校費加算だと

日本の医大数は82校、国立大学43校(防衛医科大学校を含む)、公立大学8校、私立大学(自治医科大、産業医科大を含む)が31校に分類される。

 

私立医大

学費が下がると偏差値が上昇

 

学費と偏差値、これが露骨に反比例するのが私立医大の世界である。学費総額最安値は「私立医大の価格破壊」と言われた国際医療福祉大学1910万円、次いで2000~2500万円の〝お買い得〟私立医大としては、順天堂大学、慶應義塾大学、日本医科大学、東京慈恵会医科大学が挙げられる。昭和時代より難関大とされてきた慶應のみならず、順天堂のような「東京都にある〝お買い得〟私立医大」は、「地方の国公立医大」を偏差値的に凌ぐようになった。

 

17年度に設立された国際医療福祉大の医学部は、学費が2000万円弱で首都圏(千葉県成田市)に設立されたこともあり、初年度から早慶理工学部レベルの合格偏差値を叩き出した。

 

最高額は川崎医科大4737万円、女子医大4600万に値上げ、最安値の国際医療福祉大でさえ1910万円の学費が必要になるという。(※写真はイメージです/PIXTA)
最高額は川崎医科大4737万円、女子医大4600万に値上げ、最安値の国際医療福祉大でさえ1910万円の学費が必要になるという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

また20年現在、「最も高い医大」は川崎医科大学であり、学費は約4737万円で、偏差値的には医大ランキングの最下位に近い。かつては、帝京大学医学部が約5000万円で「最も高い医大」として有名だったが、2014年から約3750万円に大幅値下げした。それと同時に、東京都板橋区というアクセスの良さもあって、偏差値が急上昇した。川崎医大にはさらに全寮制の附属高校があり、内部推薦による進学制度によって約9割が同医大に進学できる。附属高校の学費も年約500万円であり、9年間を過ごすと合計約6500万円が必要になる。

 

しかしながら、現代の医大受験では「2~3浪」はよく聞く話だし、「ベテラン講師によるマンツーマン指導の医大専門予備校」の中には「学費年500万円」という学校も存在しており、それだけ投資しても医大合格は保証されない。よって、「最短期間で確実に、成績がビミョーな子供を医者にしたい家庭」にとっては、「9年間で学費6500万円の高校+医大」とは、それなりに価値のある投資となる。学校名から、神奈川県川崎市にあると誤解されやすいが、実は岡山県倉敷市にあり、開設者の川崎祐宣先生にちなんで命名され

 

次いで高額なのが2021年度からの学費値上げが予定されている東京女子医大である。昭和時代は外科系名門病院として各界の要人を受け入れてきたが、相次ぐ医療事故や特定機能病院の取り消しもあって、経営的にもジリ貧状態である。2020年のコロナ禍で経営状況はさらに厳しいものとなり、7月に「ボーナスなし」と発表したことを受け、「看護師400人が退職希望」と報道された。その後、「一時金支給」を表明したものの、女子医大の学生が6年間で払う総学費を突如「21年度から3400万円から4600万円に値上げ」との発表がなされた。

 

この学費1200万円値上げで短期的な経営状態は改善するかもしれないが、来年度の受験者数は減って、受験料収入や合格者偏差値、そして6年後の国家試験合格率も下がる可能性が高い。かつて順天堂大が学費を大幅値下げすることで、サラリーマン家庭出身者でも進学できるようになり人気を集め、入試偏差値が上昇し病院ブランドを確立したが、その逆パターンを行くリスクが懸念される。

 

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