大学病院の教授の権威は失墜し、もはや野心溢れる若手医師が目指す存在ではなくなったという。健康診断や当直などのアルバイトで食いつなぐフリーター医師も出現した一方で、『ドクターX』で有名になった、専門的なスキルを売りにして腕一本で高額な報酬を得るフリーランス医師は、病院にとって不可欠となっています。100以上の病院を渡り歩いた現役麻酔科医が知られざる医療の現場、医師たちの本音を明かします。本連載は筒井冨美著『フリーランス女医は見た医師の稼ぎ方』(光文社新書)の一部を抜粋、再編集したものです

一般家庭から私立医大進学は不可能ではないが…

アホでも入れる医学部はなくなった

 

「学費合計が4000万円を超すような私立医大は、簡単に入学できるのか?」と言われれば、決してそうではない。近年の医学部人気は私立医大全体の人気も上昇させており、「片田舎の私立医大」≒「慶應・早稲田の非医学部」レベルまで難化した。昭和時代に、しばしば囁かれた「寄付金を積めばアホでも入れる私立医大」というのは、もはや存在しない。

 

実際、「早慶を出たら年収1000万円は確実」とはいえない世の中だが、「医師免許があれば、(おおむね30代以降は)年収1000万円」を稼ぐことは十分可能である。よって、生涯年収の合計を考えれば、「私立医大進学とは、4000万円かけても十分に回収が見込める投資」と考える家庭が増えている。

 

筒井冨美著『フリーランス女医は見た医師の稼ぎ方』(光文社新書)
筒井冨美著『フリーランス女医は見た医師の稼ぎ方』(光文社新書)

一般家庭からの進学を助ける教育ローン、奨学金

 

「世帯年収600万円のような庶民的家庭から、私立医大進学は可能か?」という問いに対して、答えは「本人の熱意と親の協力次第では、不可能ではない」。奨学金や教育ローンを活用……要するに、借金で進学するのである。米国でも医大の学費は高額(年4万~5万ドル×4年間)だが、学費ローンを利用することが多く、「医大生時代に作った10万~20万ドルの借金を抱える研修医」はふつうの話である。

 

「学費に4000万円かけても、年収1000万円以上が30年以上続けば十分返せる」式の計算は、金融のプロたる銀行員ならば簡単に思いつく。「医学部限定、上限3000万円までの教育ローン」という金融商品は、既に多くの銀行から提供されている。親が安定した職に就いており(あるいは、不動産など資産を保有している)、「住宅ローンをもう一つ背負う」レベルの覚悟があれば、学費捻出は不可能ではない。

 

深刻化する医師不足を受けて、地方自治体が医学生向けに独自に設ける奨学金制度が増えており、それを利用することも可能である。例えば、埼玉県では医学生に、医師不足地域や専門科(産科など)で働くことを条件に、「月20万円」の奨学金を貸与しており、貸与された期間の1.5倍働けば返済の必要はない(つまり、6年貸与の場合9年勤務)。また僻地勤務といっても、本当の僻地は少子高齢化が進行しすぎて出産年齢の女性が激減しており、産科そのものが存在しない。よって、埼玉県で産婦人科を選べば、少なくとも週末には東京都内で買い物やコンサートを楽しめる程度の地方中核都市には住めるだろう。

 

現在の医師紹介業者の相場は、ざっくり年俸の20~30%、すなわち「年俸1500万円の医者ならば300~450万円」が必要になる。また、白い巨塔時代の医局派遣とは異なって、せっかく確保した人材もいつ辞めるか分からないし、辞めた後の後任の保証もない。よって、「20万円×12カ月×6年間=1440万円」(奨学金の総額)すなわち「若くてフレッシュな医者を1年あたり160万円で9年間確保」できる奨学金制度は、地方自治体にとってもお買い得な制度である。

 

近年の若手医師の大学病院離れを反映して、「卒業後に自校附属病院に勤務」「キツくて不人気な科(産科、救急救命科など)に勤務」などを条件に各医大から貸与される奨学金も増加中である。例えば、順天堂大では東京都と共同で「東京都枠」を設けており、「9年間、都の指定する施設で産科・救急・僻地医療などに従事」を条件に「学費全額貸与」「生活費月10万貸与」という超オトクな制度がある。条件を満たせば学費分は返還不要という太っ腹である。同様の枠は、慈恵医大や杏林大にも存在する。また、慶應大では「成績優秀者を対象に約800万円」、また昭和大では「卒後に8年以上同大学附属病院に勤務することを条件に約900万円」の奨学金がある。

 

筒井冨美
フリーランス医師

 

 

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