新型コロナウイルス感染拡大で医療現場はひっ迫し、医療崩壊ともいわれるなど、現場の医師や看護師、そして病院に注目が集まった。全国に緊急事態宣言が出された大混乱のさなか、ある医師から一本の電話がヘッドハンターにかかってきた。「どうやら資金ショートの噂が広がり、来年の春まで持たない。紹介できる病院はないか」と。もはや病院といえども安心の職場ではなくなった。ヘッドハンターが医師の転職の舞台裏を明かす。

医療産業が地域に5万5000人の雇用を創出

以前述べたように、日本は病院数が多いため症例が分散化しているので、医療分野で世界的に通用するグローバル企業は2社しかないと評価されています。

 

UPMCのこうした取り組みの結果、地域には大きな恩恵がもたらされました。その最大のものが、雇用の創出です。約5万5000人の雇用を新たに生み出したのです。

 

患者は地元地域のみならず世界中からやって来るので、ホテルや飲食店などが増えます。また、医療関係者やビジネスパーソンも世界中から来ますから、たとえば子どもたちの学校、住居、家族をサポートするさまざまなビジネスが生まれます。スーパーマーケット、フィットネスクラブなど、コンパクトシティとして生活するうえで必要なビジネスが創出され、その結果、地域全体で約5万5000人の雇用が生まれたのです。

 

さらにUPMCの取り組みで特筆されるのは、事業収益の一部を地域に還元していることです。日本の医療法人は内部留保しているケースが多いですが、UPMCは医療事業への再投資はもちろんですが、地域社会にも還元して「街づくり」に投資しているのです。たとえば、低所得者への慈善医療や、地域健康プログラムの実施、研究・教育では貧困で高等教育を受けられない若者への資金支援なども行っています。本来であれば行政がすべきことを、医療機関が行っているのです。

 

UPMCが「街づくり」に大きく貢献していることは、別の面からもわかります。実はUPMCは州政府から完全に独立した民間の非営利医療事業体です。非課税優遇措置の恩恵は受けていますが、州政府からの補助金はいっさい受けていません。したがって、州政府が人事や経営に介入することはないのです。

 

UPMCのガバナンスは地域社会が行っています。最高意思決定機関である理事会のメンバーの3分の1は、地域から選ばれた一般住民です。

 

このように雇用創出も含めて、医療産業がまさに地域経済のエンジンとなり、街づくりにも関与しています。日本政府もこうした取り組みに注目し、ピッツバーグに学ぶべきではないかと考えているのです。

 

ちなみに、ピッツバーグと似た医療特区で、メイヨークリニック(ミネソタ州)とクリーブランドクリニック(オハイオ州)がよく比較されますが、クリーブランドクリニックは大きく違う印象があります。ピッツバーグは雇用創出で地域の治安が改善したのに対し、クリーブランドクリニックは、収益の地域への還元率が低いようです。そのため、病院の敷地内は非常に整備されているものの、敷地を一歩出ると治安が悪くて歩けないと、現地を訪れたことのある先生方は一様におっしゃられます。

 

一方で、ピッツバーグは病院と町が一体化しているという先生方の感想がほとんどです。病院が地域社会に還元するか否かが、大きな違いとして現れているようです。医療産業が地域で果たす役割、可能性の大きさを感じます。

 

武元 康明
半蔵門パートナーズ 社長

 

 

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