
日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。
一体感のある社会には福利厚生制度がない
労働分野では、「肉体労働」「頭脳労働」に続く第三の労働として、「感情労働」という概念を耳にするようになった。感情労働とは、社会学者A・R・ホックシールドによって提唱されたもので、相手の精神を特別な状態に持っていくために自分の感情を誘発あるいは抑圧することを余儀なくされる労働とされる。

たとえば、コールセンターにおけるクレーム対応を想像してほしい。いくら自分の気持ちが沈んでいても、相手の不満に真摯に向きあい、相手が納得するまでひたすら謝罪しなければならない。考えるだけでつらいだろう。
きらめくようなSNSのページもまさに同じような感情労働を社員に求めている。感情労働は、ときに社員のメンタルヘルスにも影響する。笑顔をつくり出すためにメンタルヘルスを壊したとしたら、まったくもって笑えない話だ。
地味な会社こそ一体感がある
中小企業の社長が思いつきで新しい福利厚生の制度を導入したとしても、なかなか定着するものではない。社員からすれば、「社長のいつもの思いつきだろう」で終わってしまう。一体感のある会社には、珍しい福利厚生制度を持たない地味な会社が多い。共通するのは、身の丈に合った経営をして、社員の感情を無理にコントロールするようなことをしていないことだ。
私は、SNSを否定しているわけではない。企業のブランディングのツールとして有効なものだから活用するべきであろう。ただ、社員の見えない犠牲の上での活用になってはいけないということだ。
商品は、うまくラッピングするだけで見え方がまったく違ってくる。組織も同じでラッピングの仕方によって周囲からの見え方が違ってくる。組織を立派に見せようといかにラッピングを工夫しても、中身が腐敗していればどうしようもない。社長には、見せかけの制度に流されるのではなく、組織の本質から離れない骨太の経営をしていただきたい。
島田 直行
島田法律事務所 代表弁護士
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