「家」が財産となる時代は終わりを告げた。これから都心部でも確実に起こるニュータウンを中心とした戸建て住宅の財産価値の崩壊。日本人が「家」に抱いてきた「財産」という価値観が根底から崩れていくという。本連載は多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)から一部を抜粋し、住宅街が抱える問題と対策を明らかにします。

最近の富裕層は郊外の戸建て住宅に興味なし

同じような現象は、今、東京の郊外、神奈川や埼玉、千葉などの一部の高級住宅地でも現実のものとなっています。特にこうした住宅地であるほど、地区協定などによって敷地の分割などについて制約がかかっており、敷地分割してお手頃価格にして売却するなどという手法も使えないのです。

 

郊外の高級住宅地の人気が凋落した理由は何でしょうか。それは、都心部で高級仕様のマンションが数多く誕生したからです。マンションはこれまではどちらかというと、「仮の住まい」という認識が、特に今の高齢者の世代では根強く存在しました。したがって富裕層ほど、戸建て住宅にふんだんにおカネを注いで「自分の城」を築く傾向がありました。

 

いっぽうで最近の富裕層、たとえばITで稼いだ、比較的年齢の若い層などになると、郊外の戸建て住宅などにはほとんど興味はなく、都心部の高級マンションで気楽に生活したいという欲求が多くを占めるようになっているのです。

 

つまり、都心部で会社にも近く、そして何よりも彼らは新幹線や飛行機ばかりでなく、自家用ジェットやヘリコプターなどで移動をするので、そうした施設に近く、昔以上にうるさくなった安全面への配慮やプライバシー保護も行き届いたマンションという居住形態を選択するようになっているのです。

 

かつての富裕層は、現代の富裕層がもろ手を挙げて買ってくれるはずの自宅に対して誰も興味をもってくれないことに、戸惑い、落胆しているのです。

 

拡大しきった都市郊外部住宅地

 

平成初期のバブル絶頂期まで、不動産はとにかく一方的に値上がりする不思議な存在でした。しかし、よく観察してみると、こうした地価の上昇については人口の一方的な増加と、都市部に対する一方的な人口移動の賜物であることがよくわかります。

 

次のグラフは、ここ30年間の日本の年齢別人口構成の変化と首都圏など三大都市圏の人口の推移を見たものです【図表①②】

 

 

 

生産年齢人口とは、年齢が15歳から64歳までのいわゆる「働き手」と呼ばれる人たちの人口を指します。このグラフによれば、生産年齢人口の割合が最も多かったのは1990年から95年頃にあたります。平成バブルが弾けたあたりの時点です。また大都市圏の人口は東京圏では都心居住嗜好の高まりを受けて、増えているいっぽうで、名古屋圏は横ばい、大阪圏では減少に向かっています。

 

また東京圏の中でも埼玉や千葉といった自治体では、人口はいよいよ減少に向かっています。

 

次ページ首都圏郊外で始まった激しい高齢化現象
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