近年、企業による「不適切会計」が後を絶ちません。粉飾決算の動機の多くは「銀行や投資家を欺くため」ですが、従業員が「経営者を喜ばせたい」という気持ちから粉飾に手を染めるケースもあります。粉飾決算や黒字倒産を防ぐには、財務諸表の数字からそれらを見抜くことだけでなく、会社の内部事情を分析し、粉飾・黒字倒産のプロセスやメカニズムを明らかにすることも重要です。粉飾決算のきっかけは何か、どのように深みにはまっていったのか、粉飾決算を行った代償は何か…。実際の事例をもとに解説します。※本連載は、矢部謙介氏の著書『粉飾&黒字倒産を読む』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「粉飾決算の経緯」を知る2つの意義

なぜ、粉飾決算の経緯を知ることが重要なのでしょうか。ポイントは2つあります。1つ目のポイントは、粉飾決算の経緯を知れば、粉飾決算を起こさないために気をつけるべきことを理解できるという点です。また、万が一、粉飾決算が行なわれてしまったときに、傷を深くしないための仕組みについても、粉飾決算の事例から学ぶことができるでしょう。

 

2つ目のポイントは、粉飾決算を行なった企業の末路を知ることで、粉飾決算の恐ろしさを知ることができるという点です。今までで取り上げた事例では、粉飾を行なった多くの企業が最終的には倒産の憂き目にあっていました。

 

本記事で取り上げる企業は、倒産こそ免れることができたものの、粉飾決算により高すぎる代償を支払わなくてはなりませんでした。結局、粉飾決算によって得るものは何もなかったのです。こうした点をきちんと知っておくことが、粉飾決算に足を踏み入れないためには重要なのです。

調査報告書は「粉飾決算の経緯」がわかる貴重な資料

粉飾決算に至った企業で何が起こっていたのかを知るためには、その企業の内部情報を知る必要があります。しかし、通常そうした内部情報を会社の外部から知ることは容易ではありません。そこで今回は、粉飾決算が発覚した企業の状況について調査を行なった際に作成された調査報告書から、その社内で何が起こっていたのかを探っていきます。

 

調査報告書は、粉飾決算などの企業不祥事が発覚した企業が、第三者委員会や特別調査委員会などを設置して調査を行なった際に作成されるものです。第三者委員会は、その名のとおり粉飾決算を行なった企業とは利害関係を持たない第三者により組織されているため、外部者の視点からその企業の問題を分析します。そのため、調査報告書は、その企業で起こったことを客観的にまとめた貴重な資料だと言えます。

 

もちろん、調査される側が第三者委員会等に対して協力的だとは限りません。そういった協力が得られない場合も含めて、すべての情報が調査報告書に反映されているとは言えませんが、それでも会社の外部から粉飾決算の経緯を知るうえで非常に重要な資料であることに変わりはありません。

 

ところで、本記事の目的は調査報告書そのものの善し悪しを吟味することではありません。あくまでも、「粉飾決算を行なっていた企業で何が起こっていたのか?」「粉飾決算が行なわれた原因は何だったのか?」、そして「その結果、どんな代償を支払わなければならなかったのか?」という点に着目し、調査報告書の内容を解説していきます。

 

今回の事例に関する記述は、特に断わりのない限り調査報告書などの公表資料に基づくものです。ただし、匿名の社名や人名に付されたアルファベットは適宜変更しています。

 

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粉飾&黒字倒産を読む 「あぶない決算書」を見抜く技術

粉飾&黒字倒産を読む 「あぶない決算書」を見抜く技術

矢部 謙介

日本実業出版社

「この数字、何かがおかしい―」 決算書の数字には、粉飾決算や黒字倒産のシグナルが現れます。 「きれいな数字」にだまされず、ビジネスや投資の「リスク」を読み解き、手を打つことが重要です。 会計の基礎教養から会…

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