「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医:山川が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

人の目が気にならないのはなぜ? ――そうか。

次の日の手術の予習、今日の手術の復習、糸結びや腹腔鏡手術の練習などなど、やるべき課題は山積みである。次の日も早いため、時間との勝負でもある。

 

(さて、何を食べようか)

 

まずは腹ごしらえである。病院から自宅までの間にはたくさんの飲食店が並んでいるが、僕はご飯のおかわりが無料の某チェーン店を愛用していた。

 

(いただきます)

 

そう心の中でつぶやいて手を合わせると勢いよく食べ始める。いかに満腹感を感じる前にご飯をおかわりできるかというのが僕の夕飯のテーマだった。1食でお茶碗に3〜4杯は食べるようにしていた。

 

朝はいつもギリギリのため朝食は食べないのだが、日中もしばしば手術が忙しくて昼食を食べ損ねる。そのため、夕食だけで明日1日分のエネルギーを摂らなければいけない。それが翌日の働きに関わってくるのだ。

 

ご飯のおかわりに行くと、いつもの店員さんと目が合う。店員さんはおそらく学生で、無愛想な女の子だ。

 

この人、いつもご飯をおかわりしているけど貧しいのかな。一瞬そう思われているような気がしたが、それほど気にならなかった。

 

(普段は人の目を気にするのに、ここでは人の目が気にならないのはなぜだろう)

 

医者という立場から解放されているから。怖い先輩がいないから。責任がないから。

 

食べることに必死だから。店員さんが僕のタイプじゃないから。

 

いろいろと理由は思い浮かんだが、その中の1つである「食べることに必死だから」という答えに引っかかりを感じた。

 

(そうか、必死だったらなりふり構わず、自分の思ったことを行動に移せるのかもしれない)

 

僕は、東国(とうごく)病院ではもちろん、石山病院で初期研修をしていた頃から、上の先生の目を気にするところがあった。

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