コロナ禍により急速に普及した「オンライン講義」。感染リスクを抑え、かつ所在地に関わらず教育を受けられることから、学生にとっては優れた学習環境になったと思われる。しかし、実は「意外な要素」が教育格差を生むと判明し…。東欧の医学部に在籍する筆者が実体験を語る。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

コロナ禍では、案の定「実習受け入れ先」探しに難航

私は7月に日本へ帰国し、必須科目4科のすべての臨床実習を日本国内で受けて、実習単位の取得を目指すこととなりました。

 

コロナ禍で実習受け入れ先となる病院を探すのはとても困難でした。そもそも日本国内では「見学型」が主流で、学生が医療チームに加わり臨床実習を行う「クリニカルクラークシップ」を受け入れている病院は少数です。しかも、たとえクリニカルクラークシップを受け入れている病院であっても、ほとんどの場合、受け入れ期間は最長4週間までとなっています。

 

それどころか、今年4月から8月までは、多くの病院が研修希望の学生を対象とした病院見学さえ中止しており、実習の申し込みは望めない状況でした。ダメ元で連絡した病院からは次々に断られてしまい、一時はスロバキアへ戻ることも考えていました。

 

しかしその後ご縁があり、福島県いわき市の常磐病院に実習受け入れを承諾してもらえることとなったのです。常磐病院に繋いでくださったのは、同病院の乳腺外科医である尾崎章彦先生でした。

 

尾崎先生とのご縁は2017年12月のこと、世界で最も権威のある世界五大医学雑誌の一つ『Lancet』に受理された、レター論文の執筆をお手伝いさせていただいたことがきっかけです。論文の内容はネパールで発生したモンスーン期の豪雨による洪水被害に関するものでした。

 

それ以降、医学論文の書き方をご指導いただくようになり、結果として、初めて論文を発表してから3年間で9本の論文を発表することができました。

 

また、論文のご指導以外にも、尾崎先生が編集長を務めるメールマガジン『MRIC Global』の記事編集作業にも携わらせていただいています。『MRIC Global』は一般の方に向けて、各国の医療問題や、様々な社会問題に関する記事を配信するものです。

 

こうした論文執筆や『MRIC Global』の記事編集作業はすべて、FacebookメッセンジャーやZoomを利用して行っていました。私自身はスロバキアにいながら、日本にいる尾崎先生とコミュニケーションをとり、ご指導を受けていました。

「人と人との繋がり」に助けられたと強く実感

話を戻します。今回、スロバキアでの大学の状況や、単位取得に必要な実習の内容について相談した際、尾崎先生はその日のうちに病院事務の方に繋いで、日程調整や必要な手続きを始めていただきました。

 

さらに、常磐病院にはない診療科の実習先まで調整していただき、南相馬市立総合病院の脳外科、福島県立医科大学病院の小児外科と形成外科、南相馬市原町区のときわ整形外科で外科実習を受けることができました。

 

自力で実習先の病院を探すことに難航したのは、私が海外大学の医学生だからということもあります。そのため、いざ実習に訪れた病院やクリニックでは温かく受け入れてもらえたので本当に驚きました。これは尾崎先生個人が持つ「人と人の繋がり」を通してご紹介いただいたおかげであると強く実感しました。

自由なサポート体制により「贅沢な実習」が実現

前述のように、コメニウス大学では、受け入れ先のない学生は「スロバキアの大学病院で、可能な限り病院実習を行う」という方針となっていました。しかしスロバキアでは10月1日に2度目の緊急事態宣言が発令されたため、実際にコメニウス大学で外科実習を受けられた期間は1週間ほどでした。

 

それに対して、常磐病院では7週間、毎日8時から17時まで臨床実習を受けることができました。また、通例の大学の臨床実習では指導医1人に対して約10人の学生がいるのですが、常磐病院の実習では医師4〜5人に対して学生は私1人のみという状況で、贅沢な実習となりました。実習内容についてもご配慮いただき、欧州大学医学部で実施されているものに近い、手を動かす実践的なカリキュラムを組んでいただきました。

 

平成30年7月、厚労省は医学生が実施可能な医行為の例を拡大し、臨床実習中に実施が開始されるべき医行為として皮膚縫合、手術助手などの手技、推奨項目に指導医の監督下での気管挿管、膿瘍切開など、患者さんの身体に対する侵襲が大きい項目が加わりました。

 

しかし、実際には日本の医学生が大学の臨床実習中に、こういった医行為を実施することは少ないそうです。対して、常磐病院の外科実習では「前立ち」と呼ばれる内視鏡を持つ第一助手をさせてもらえたり、気管挿管を丁寧に教えていただいたりすることができました。

 

こうした常磐病院の自由なサポート体制は、様々な場所から新しい医師や医療者を同病院に呼び込んでいます。同時期に常磐病院入りをしたのは私だけではありません。板橋中央総合病院から研修医の先生たちが来ていて、長期と短期というスパンで、常に4人ほど地域研修を受けています。

 

私にとっては、専門医から個別指導を受けつつ、学年が近い研修医には日本での研修や国家試験について相談できるという、恵まれた実習環境です。

 

長期化しているコロナ感染拡大によりオンライン教育体制が導入され、どこにいても各国の医療教育を受けられるようになりました。一見、学生にとって授業が受けやすい環境になったかと思われます。しかし上記の体験談からわかるように、「個人ベースでの活きたネットワーク」を持っているか否かによって、受けられる教育の内容に大きな差が出ることが浮き彫りとなりました。しかし、やる気次第で、新しい実習体制を切り拓き、自分の好きなようにカスタムして、ピンチをチャンスに変えることもできるかと思います。

 

 

妹尾 優希

スロバキア・コメニウス大学医学部6年

 

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