「家」が財産となる時代は終わりを告げた。これから都心部でも確実に起こるニュータウンを中心とした戸建て住宅の財産価値の崩壊。日本人が「家」に抱いてきた「財産」という価値観が根底から崩れていくという。本連載は多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)から一部を抜粋し、住宅街が抱える問題と対策を明らかにします。

郊外の家には年老いた親が残り、死後に空き家に

親が死なないということは、「家がなかなか空かない」ということなのです。親が80歳を超えると、たいていの家族では子供はすでに40歳代後半から50歳代です。サラリーマンで言えば、責任ある仕事をばりばりとこなす年代と言えます。地方から東京などの大都会に出てきてサラリーマンになった世代は、もともと親とは離れて暮らしてきましたので、新たに家をもつことには意味がありました。しかし、大都市圏郊外で育ったその子供たちはといえば、今、親が80歳代になっても、郊外にある家は一向に「空かない」状態にあるわけです。

 

牧野知弘著『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)
牧野知弘著『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)

そこでもう焦れて、自分たちだけのための家を購入します。そして、郊外の家には年老いた親だけが残り、その死後に空き家になる、という構図です。

 

三つ目には、ライフスタイルの変化があります。

 

夫婦共働きが当たり前の就業形態となると、必然の結果として、職場と家は近くないと成り立たなくなります。子供を保育所に預け、夫婦で働き、どちらかが子供をひきとって家に戻り、食事を作る。こんな生活を職場まで1時間半もかけて通った親の家で営むのには無理があります。

 

親との同居についても、都市部ではポピュラーな価値観ではなくなり、子供を同居する親に預けて面倒を見てもらうのは地方などに限られたものとなってきています。

 

こうした背景から、空き家は増加するいっぽうの状態にあります。

 

首都圏に潜伏する大量の空き家予備軍の正体

 

空き家はこれまで地方の問題とされてきました。地方から仕事を求めて都市部に出てきた団塊世代を中心とした人たちが、家庭を築き、もはや出身地に戻ることなく、東京の郊外部に居を構えるようになると、地方にある親の家が空き家になるようになりました。まさに地方で空き家が目立つようになったのです。

 

これを空き家の第一世代と言います。

 

ところが、今問題となっているのは、この都市郊外部で育った、団塊ジュニアをはじめとする子供たちが、郊外部にある親の家に住むことなく、都心部で職場に近い住宅を選ぶようになったために引き起こされる新たな問題です。

 

郊外部に取り残された親たちは、これから高齢者施設や病院のお世話になる、そして、親が亡くなったあと、この家に住む予定の子供たちはいないというのが、これから首都圏をはじめとした大都市圏の郊外部で引き起こされる問題なのです。

 

私はこれを、空き家第二世代と呼んでいます。

 

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