アパート経営にあたっては、賃貸借に関する法律を知っておくことが必要です。今回は、その中でも特に理解すべき2つの法律、「借地借家法」と「消費者契約法」について見ていきます。*本記事は大谷義武氏、太田大作氏の共著『改訂版 空室率40%時代を生き抜く!「利益最大化」を実現するアパート経営の方程式』から一部を抜粋し、再編集したものです。

アパート経営者にとって非常に不利な二つの法律

現在、わが国におけるアパート経営を取り巻く環境は大きく変化しています。今後のアパート経営の肝は、その厳しい社会の「流れ」の中でどのように家賃を回収していくかにあります。そのためには、まずその「流れ」を作っている原因を理解しなければなりません。

 

アパート経営は大変だ! (画像はイメージです/PIXTA)
アパート経営は大変だ!
(画像はイメージです/PIXTA)

 

日本の賃貸借の取り決めは、民法と民法の特別法である借地借家法、さらには平成13年施行の消費者契約法という法律に則っています。そして、民法を除くこの二つの法律が、オーナーさんにとって非常に不利な法律であるということをきちんと理解し、対応することが、アパート経営におけるリスク管理につながるのです。

 

入居者とは「対等な関係ではない」という前提を持つ

では、まず借地借家法から見ていきましょう。

 

これは一言で言えば、「借家権」という形で賃借人(入居者)に強い権利を認めている根拠となる法律と言えます。

 

空室で家賃を得られないのはある意味当たり前というか、仕方がないと割り切れますが、入居者がいるのに家賃を得られないというのは非常に困った問題です。そして、そんな家賃不払いの入居者が、何カ月も家賃を支払わないまま住み続けることができてしまうところに問題があるのですが、その根本原因はこの借地借家法にあります。

 

法律の詳細は他書に譲りますが、借地借家法のルーツは戦時立法にあります。戦争中、夫が戦地に赴き、妻や子供だけになってしまった家庭が家主から追い出しを受けないようにと、入居者の権利を強く保護するために作った(厳密には、昭和16年の改正により「正当事由」が導入された)という背景があるのです。そのため、貸主と借主との関係が対等ではなく、明確に借主優位(借主保護)の内容となりました。

 

例えば、家賃1、2カ月分の滞納では退去させられないという判例があります。また、契約の終了に当たっては、借主側が住み続けることを選択すれば、貸主側からは自分がその物件に住まざるを得ないなどの「正当事由」がある場合を除き、契約を終了する(出ていってもらう)ことはできません。

 

つまり、オーナーさんは、「入居者に簡単に出ていってもらうことはできない」という認識を強く持ちながら、アパート経営に取り組む必要があるのです。

 

また、話題になった更新料訴訟の発端になったのが消費者契約法という法律です。特にこの法律の第10条が問題で、「消費者の利益を一方的に阻害する取り決めは無効」という内容になっています。この条文を根拠に、更新料は賃貸借契約書に明記してあっても「無効」とされる判決が相次ぎ賃貸業界を震撼させました。

 

これは、結果的には「更新料は有効」という判決に落ち着いたので、全国のオーナーさんは胸をなでおろしたに違いありません。

 

大切なことは、車と歩行者の関係で言えば、オーナーさんは車で入居者は歩行者であるという認識を持つことです。そもそも対等ではないという前提で契約関係を組み立てないと、突然大変なことに巻き込まれてしまう可能性が高くなります。この二つの法律の意味をよく理解することは、アパート経営を行う上で非常に重要です。

回収リスクを考えれば保証会社の利用は必須

滞納は非常に深刻な問題です。滞納は家賃だけではありません。更新料と、退去時の入居者負担金(退去負担金)などまで含まれます。また、現在の法律によって簡単に出て行ってもらえないことも説明いたしました。

 

オーナーさんが実際に得られる収入は、「契約賃料等×回収率」です。回収できなければいくら満室になっても収入が得られないということになります。入居率と並んで、もしくはそれ以上に回収率が重要になってきますし、今後はその重要度が上がっていくことは間違いありません。

 

滞納が一度起きてしまうと、回収するのは非常に困難です。いかに滞納させない仕組みを作るかということが、これからのアパート経営においては重要になります。

 

当社はそのために提携する保証会社への加入を絶対条件としています。保証会社への加入によって滞納のリスクはほぼ防げると言えますので、非常に重要な要素となります。もちろん、以前存在したリプラスという会社のように、保証会社自体が倒産するというリスクもあります。しかし、倒産リスクよりも滞納が発生するリスクのほうが圧倒的に高いのが現状です。

 

 

要は、入居者が保証会社に保証料を支払うことによって、滞納のリスクを保証会社に負担してもらうということです。家賃を回収できなければオーナーさんは倒産してしまうわけですから、これはオーナーさん自身の自衛手段とも言えるでしょう。そこで当社の管理物件においては、基本的に新規の入居者はすべて保証会社に加入しています。

 

保証会社に加入するための保証料は、家賃の30~50%程度です。これを入居者に支払ってもらいます。また、更新時に一定額を支払ってもらうことで、滞納が発生した場合の家賃等を保証会社が入居者に代わって負担するというのが主な仕組みです。

 

なお、中古物件をオーナーチェンジで購入すると、保証会社に加入していない状況がほとんどですが、このような場合でも既存の入居者に保証会社に加入させることは可能です。費用は入居者ではなくオーナーさんの負担となるケースが一般的ですが、費用負担をしてでも保証会社に加入するほうが望ましいでしょう(ただし、既存入居者を保証会社に加入させるのは、入居者の同意を得なければなりません。当社の事例では、50%程度の加入成功率となっています)。

 

また保証の範囲としては、家賃だけでなく、更新料・退去負担金、さらには電気・水道の料金までもカバーできるようになっています。オーナーさんにとっての回収リスクを考えれば、保証会社に入るのは必須と言えます。

家賃回収専門の弁護士事務所に委託する手も

滞納を防ぐためには保証会社への加入が必須であるとはいえ、中古物件を取得した場合には、既存の入居者が保証会社に加入していないケースがほとんどではないでしょうか。

 

前項で説明した通り、既存の入居者に対しては保証会社への加入を促すものの、すべての入居者を加入させられるわけではありません。そして保証会社に加入していない入居者が滞納をするケースも多々あります。その場合には、オーナーさん自ら滞納家賃を回収しなければなりません。ポイントは滞納が始まったらすぐに督促の電話、書面の送付を行うことです。月末に入金がなかったら月初の早い段階で督促をすることによって大きな滞納になることを防ぎます。

 

しかし、それでも払わない入居者に対しては、現地への訪問も行います。これは実際に家に来られるのは嫌だという心理的プレッシャーをかけることで回収を図ります。と同時に、連帯保証人がいる場合には連帯保証人に対しても電話、書面による督促を行います。場合によっては内容証明を送ることもあります。人間にはやはり人に迷惑をかけるのは嫌だという本能がありますので、この段階で支払う入居者がほとんどです。

 

ただ、それでも連絡が取れなかったり、連絡を無視したりする入居者からは、回収が非常に難しくなります。滞納額は平気で3カ月分、4カ月分と膨らんでいきます。その際は、家賃回収専門の弁護士事務所に委託する方法があります。現在ではこの分野に特化した弁護士事務所も出てきており、当社ではいくつかの弁護士事務所と提携して家賃の回収を委託しています。委託するに当たっての費用は成功報酬として回収額の30%前後となるのが一般的です。全額回収できないことを考えれば、オーナーさんにとっては良い方法と言えるでしょう。

周りにも悪い影響を与える「モンスター入居者」

ここまで滞納問題の深刻さと、いかに滞納を防ぐかについてご説明いたしました。しかし、オーナーさんを悩ませる不良入居者は滞納者だけではありません。

 

いわゆる「モンスター入居者」と言われる不良入居者です。騒音を出したり、ゴミ屋敷にしたりというとんでもない入居者です。滞納が定量的な面だとすれば、不良入居者は定性的な面の問題です。そして単純なお金の問題ではないだけに余計に厄介です。

 

しかし、これらの入居者を放置していると、例えばゴミ屋敷による異臭が充満することで他の入居者にもその影響が及び、最悪の場合は周りがみんな退去してしまいます。滞納は、その入居者だけの問題ですが、このモンスター入居者は、周りにも悪い影響を与えるという点では、滞納よりも深刻な問題です。これらの「モンスター入居者」には毅然として対応する必要があります。一日も早く退去してもらわなければオーナーさんの利益は確保できません。

「法的措置」か「任意の話し合い」で退去させる

では、不良入居者の追い出しはどうすればいいのでしょうか。まず、不良入居者には大きく二種類のパターンがあることをご説明しました。「滞納者」と「モンスター入居者」です。

 

滞納者については、保証会社に入っている場合は保証会社が対応しますので、ここでは保証会社に入っていない滞納者への対応です。前々項で法律事務所を使っての回収方法をご紹介しました。しかし、この方法でも回収できない場合があります。その場合は、追い出すしか手はありません。その追い出しの手法には「法的措置」と「任意の話し合い」という二種類があります。

 

 

一つめの「法的措置」は、家賃の不払いや他に迷惑をかけることを理由に裁判所に申し立て、立ち退きの判決をもらう方法です。

 

これは、時間と弁護士費用(100万円前後)がかかります。また、不払いが1、2カ月分では裁判所も認めてくれないため、3カ月分以上の滞納に対して申し立てる必要があり、判決が出るのに数カ月かかります。判決が下れば強制執行となりますが、未収分の家賃は基本的に回収することはできません。基本的にはあきらめるしかないのが実情です。また現実的には、ゴミ屋敷のゴミも入居者に撤去させることはできないでしょう。

 

二つめは「任意の話し合い」による退去です。話し合いを行って、出て行ってもらうというものです。通常は、オーナーさんもしくは管理会社が行うことになります。この場合は、話し合いで解決できれば、法的措置に比べれば時間が短縮できる(最短1カ月未満)というメリットがあります。

 

ただし、法的措置と同様に未収分の家賃を回収することはまず不可能です。下手をすれば引っ越し代などの名目で退去してもらうため、入居者にお金を払わなければいけないケースも多くあります。まさに「盗人に追銭」です。オーナーさんにとっては「踏んだり蹴ったり」です。しかし、根本的にわが国には、先述した通り借地借家法の存在がありますので、致し方ない部分がどうしてもあるのです。

 

そして、法的措置にしろ、任意の話し合いにしろ、オーナーさんにとっては別途、対象部屋の原状回復費用がかかります。さらに、空室期間の機会損失が発生し、新規入居者獲得のための広告料もかかります。

 

不良入居者を入れてしまうということは、オーナーさんにとっては非常に大きなマイナスになることをご理解いただければと思います。

本連載は、2013年7月2日刊行の書籍『改訂版 空室率40%時代を生き抜く!「利益最大化」を実現するアパート経営の方程式』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

本連載は情報の提供及び学習を主な目的としたものであり、著者独自の調査に基づいて執筆されています。実際の投資・経営(管理運営)の成功を保証するものではなく、本連載を参考にしたアパート事業は必ずご自身の責任と判断によって行ってください。本連載の内容に基づいて経営した結果については、著者および幻冬舎グループはいかなる責任も負いかねます。なお、本連載に記載されているデータや法令等は、いずれも執筆当時のものであり、今後、変更されることがあります。

空室率40%時代を生き抜く!  「利益最大化」を実現する アパート経営の方程式

空室率40%時代を生き抜く! 「利益最大化」を実現する アパート経営の方程式

大谷 義武 太田 大作

幻冬舎メディアコンサルティング

アパート経営は今までと同じやり方では利益が出ない時代へと状況が大きく変わってきています。歴史上初めての大きな転換期を迎えていると言っても過言ではありません。だからこそ今のうちに、アパート経営を見直し、しっかりと…

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