
日本の労働法は、労働事件が発生したとき社長を守ってくれない。経営判断をするとき、「これってまずくないか?」と立ち止まる感覚が必要だという。これまで中小企業の労働事件を解決してきた弁護士は、この“社長の嗅覚“を鍛える必要があるとアドバイスする。本連載は島田直行著『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)から抜粋、編集したものです。※本連載における法的根拠などは、いずれも書籍作成当時の法令に基づいています。
訴訟で勝ちたいのか、問題を解決したいのか
「しなやかな解決」に必要なのは「手放す勇気」
老子の言葉に「戦いに勝ちては、喪礼を以之に処る」というものがある。「戦いに勝った者こそ喪に服するような敬意を敗者に持つべき」という意味だ。私はいつもこういう気持ちで事案に臨んでいる。私の事務所を利用する社長も、このような私のスタンスに共感する方々ばかりだ。

そもそも社長が勝ったとしても、社員を侮れば、SNSなどに会社の悪評を書かれることが現在ではありうる。それを見た求職者が、そんな悪評のある会社に果たして応募してくるだろうか。なによりも、社員を侮る社長を他の社員はどのように評価するだろうか。
だからこそ、労働事件は裁判によらずにできるだけ歩み寄りによる話し合いでの解決にこだわるべきだ。そのほうが速いし、コストもかからない。なにより柔軟な解決をすることができる。
私はいつも「しなやかな解決」を模索している。ここでいう「しなやかさ」とは、「流れるようでいて芯がある」というイメージだ。「周囲に合わせつつも、譲れない部分を維持する」というバランスのある解決こそ理想だろう。
こういったしなやかな解決を求めていく上では、社長に「手放す勇気」が求められる。交渉とは、つまるところ「なにを手放し、なにを手に入れるか」ということに尽きる。手放すことが先だ。Win-Winの関係になれればいいが、緊張感を持った争いになっているときに悠長なことを言っていられない。
問題解決が速い社長は、「なにを手放すか」の順番を決めるのが速い。「ひとつ手放せばひとつ近づく」。それが交渉というものだ。手放す勇気を持てない社長は、気がつけばすべてを失った社長になりかねない。
「訴訟で勝ちたいのか、問題を解決したいのか」
社長には、自問し続けていただきたいテーマだ。これによって御社の選ぶべき顧問弁護士も違ってくるはずだ。
島田 直行
島田法律事務所 代表弁護士
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