遺産相続は退職金に並ぶ人生の二大収入であり、大切な老後資金です。うっかりしていると、せっかくの資産が目減りしたり、税優遇のあるお得な特例を使い損ねたりすることがあるため、注意が必要です。相続に詳しい税理士が、相続の基礎知識から具体的なノウハウまで、明快に解説します。※本記事は、WTパートナーズ株式会社代表取締役、WT税理士法人代表社員の板倉京氏の著書『知らないと大損する! 定年前後のお金の正解』(ダイヤモンド社)を一部抜粋・再編集したものです。

「家族信託」なら、親が元気なうちから財産を守れる

親の資産運用を子どもができるシステムで、資産を無駄にしない

親が認知症や脳梗塞になると財産が凍結される。

財産が凍結されると「資産運用」ができなくなる。

「家族信託」を結んでおけば、 子が親の資産を運用できる。

 

人生100年時代では、親御さんが高齢で認知症や脳梗塞などになるケースも増えています。親の資産を守るには、相続だけでなくそういった場合の対処も考えておく必要があります。

 

50代の女性からこんなご相談を受けました。

 

「父が脳梗塞で倒れ、今入院しています。今後、施設に入るためにまとまったお金が必要なのですが、預金口座には全然お金がなくて……。そのかわり証券会社で投資信託をたくさん買っていたみたいなのです。証券会社に連絡して、投資信託を売ってお金を引き出したいと頼んだのですが、本人からの依頼じゃないと売買も引き出しもできないと言われてしまい、途方に暮れています。年寄りで判断能力もどんどん弱っていたことは、わかっていたのに。放っておいたらこんなことになってしまうんですね」

 

銀行や証券会社にあるお金を引き出したり、金融商品を解約したりするのは、本人でないとできません。亡くなった時に口座が凍結されるという話は、『税理士が解説…「知らなければ損ばかり」遺産相続のコワい現実』でもしましたが、認知症や脳梗塞で意識がなくなった時なども、口座が凍結されてしまって動かせなくなるのです。

 

幸いご相談者のお父さんは、頭はしっかりしていて、片言でお話もできたので、電話で証券会社の方に投資信託を解約して引き出したい旨、また今後その手続きは娘に任せたいことを伝えられ、なんとか現金を引き出すことができました。

 

実は、私自身も似たような経験があります。義理の父が脳梗塞で倒れ、父の財産を確認してみたら多額の投資信託を購入していました。ちょうど相場が崩れだした時だったので、今売却すべきだと思いましたが、父は話すことができず口座を動かすことができませんでした。結果、相場の悪化で投資信託の価額が下がっていくのを見ていることしかできませんでした。

 

●「家族信託」を結べば親の資産の運用を子どもができる

 

このように、認知症や脳梗塞などで本人の判断能力が低下すると資産が凍結されてしまい、介護などに使える財産を持っているのに引き出すことができず、有効に使えていない高齢者はたくさんいるのです。親が80代になったら、親だけで資産管理をすることは難しくなってきます。親の資産を子どもが守るということを、親が元気なうちから考えてほしいと思います。

 

こういった時に使えるのが「家族信託」という制度です。家族信託とは、家族に自分の資産の管理や運用を任せるものです。「家族信託」は次の3者で成り立ちます。

 

★「委託者」財産の管理を託す人

★「受託者」頼まれた財産の管理を託される人

★「受益者」信託された財産から利益を受ける人

 

「委託者」と「受益者」は同じ人で構いません。

 

たとえば、父(委託者)の証券口座の運営管理を、息子(受託者)に託して、その証券口座からの売買益や配当などの利益は父(受益者)が受け取るという信託契約を結べば、父親が認知症などになっても、息子の判断で証券の売買などをすることができるというわけです。

 

[図表]家族信託の仕組みを利用した親の資産運用

 

信託する財産は選択することができます。もともとは預金や実家、不動産などで使われることが多かったのですが、最近は親が株や投資信託など証券会社で取引をしており、上場株式や投資信託を管理できるようにしたいという人が増えてきているといいます。

 

似たような制度に「任意後見制度」があります。これは、親が元気なうちに財産を管理する「後見人」を決めておく制度です。「任意後見制度」では、親のための預金の出し入れはできますが、財産は裁判所の管理下に置かれます。

 

「任意後見制度」は、本人(親)の財産を守ることが目的なので、財産を自由に売買することはできません。売却するためには、たとえば、「親が介護施設に入るため」などの理由が必要で、家庭裁判所の許可が必要になります。「今が売り時だから」などという理由で売買することは、難しいのです。

 

一方「家族信託」なら、契約で定められた範囲内で自由に財産の運用や売却ができます。また、財産を相続する人を指定することもでき、上手に利用できれば効果の高い制度です。

 

ただし、制度自体が少々複雑で、設定の仕方を間違えると大きな税金がかかってくるなどのリスクもあります。興味がある方は専門家に相談してほしいと思います。 

 

板倉 京

WTパートナーズ株式会社 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士

 

 

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