2013年に中国・習近平国家主席が提唱した「一帯一路構想(BRI)」。沿線諸国・地域の期待を集める一方、プロジェクトをめぐる衝突や債務累積の懸念による否定的評価、はては主要国から政治的野望との警戒の声があがるなど、諸外国のBRIに対する受け止め方、評価は様々だ。今回のパンデミックを受け、中国がBRIをどう展開していくのか、関係各国が注目している。交錯する経済要因と政治外交要因から中国の戦略を考察する。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

【中ア団結抗疫特別サミット】…6月中旬 

 

習近平国家主席は「中ア協力フレームワークの枠組みの下で提供し、2020年末に期限を迎える無利子融資債務の返済を免除する他、感染の影響が深刻な諸国に対し、さらに債務返済期限の延長を通じて支援を強化していく」と発言。

 

債務返済を免除するとした大半のプロジェクトはBRI関連と考えられ、諸外国からの「中国のBRIは相手先を債務のわなに陥れる外交」との批判を意識したものであると同時に、中国としてBRI関連融資の債務返済が当面処理すべき問題であることを示したものとして注目された(『[連載]中国習政権のアフリカ外交戦略を読む』参照)。

 

【BRI国際協力ハイレベルTV会議】…6月下旬 

 

会議時点での最新数値だった2020年1〜5月の沿線諸国・地域への非金融部門投資が16%増(米ドルベース)と高い伸びを示し、中国の対外投資全体に占めるシェアも前年同期から2.8%ポイント上昇し15.4%となったことを踏まえ(※1)、王毅外相は「事実は新型コロナがBRI協力の勢いを削ぐどころか、むしろ協力が強い耐性と旺盛な活力を持っていることを明らかにした」とし、「健康シルクロードを共に建設することを加速させる」と発言。

 

※1 2020年1〜10月では金額23.1%増、シェア16.3%とさらに伸びが加速している。(本文図表2)。

 

その上で、中国はすでに沿線122の国・地域に抗疫物資を提供、25ヵ国に医師団を派遣、中国がBRI推進で重要な役割を果たすと位置付けている中欧班列(※2)の1〜5月の運行・貨物輸送量は各々28%、32%増、防疫物資1万2524トンを提供したことを誇示した。

 

※2 中国内陸部と欧州を結ぶ国際定期貨物列車で2011年運行開始。BRI提唱以降に班列が急速に拡大。20年1〜7月の運行本数6354、輸送量57.4万TEU(標準コンテナ)でいずれも前年同期比40%超増、8月も同60%以上の伸び。3月21日に防疫物資を積んだ最初の班列が浙江省義烏市を出発して以降、輸送貨物の約4割が防疫物資。中国外交部は「新型コロナで国際的に輸送網が影響を受ける中、中欧班列は『鋼鉄駝隊(キャラバン)』として、各国協力の『生命通道(ルート)』『命運紐帯(運命中枢)』になっている」と自負(2020年9月11日付中国経済網他)。

 

習近平国家主席は会議に書面での挨拶を寄せ、米トランプ政権の自国中心で反グローバル的色彩の強い外交を強く意識したものと思われるが、グローバルな危機に対応するためには多国間主義を堅持することが不可欠で、その意味で、BRI協力は重要な役割を発揮することになるとした。

 

(出所)中国商務部
[図表2]一帯一路沿線諸国・地域への非金融企業直接投資 (出所)中国商務部

 

【AIIB年次総会】…7月末 

 

AIIBがBRI推進を大きな目的として中国主導で設立された国際組織であるにもかかわらず(2016〜20年10月の累計承認プロジェクトは101件、214.6億ドル、うち112.5億ドル執行、部門別では約半分がエネルギー、輸送、水資源、2割弱が開発を手掛ける金融機関やファンドへの融資〈『AIIBは新シルクロード構想の進捗を加速させるか?』参照〉)、習近平国家主席は挨拶の中で、BRIや沿線諸国への新たな援助拡大について全く言及せず、香港国家安全維持法を6月末に制定したことなどで、米国を中心に欧米諸国との緊張が同時的に高まる中での開催となったことも影響してか、多国間主義を強調するに止まった。

 

パンデミックによる世界経済の落ち込みから中国の対世界輸出が低迷する一方、対米貿易問題で米国からの農産品輸入は増やす必要があり、中国経済は「外強中干」、つまり見かけは強いが中味はもろく、実は対外援助を増やす余裕がないことを示したものとする見方も流れた(海外華字各誌)。

 

なお、次期第14次5カ年規画と35年遠景(長期)目標建議を承認した党中央委員会第5回全体会議(5中全会、10月末)は、建議の中でBRIについてひとつのパラグラフを設け、「共商共建共享原則の下で推進していく」とし、また環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を積極的に検討すると表明したことで注目されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議(11月20日)での習演説では、域内経済一体化のために相互連携が重要であることを強調した文脈で、BRIについて、「アジア太平洋相互連携の幅広いプラットフォームとして、またアジア太平洋と世界経済により強い力を注入するため、各方面と協調して質の高いBRIを共に建設したい」と、ほぼ従来の言いぶりを繰り返している。

 

中国内のメディアや専門家は概ね、パンデミックがBRIを推進していく上で一義的にはマイナスの影響を及ぼすことは否定できないとしても、中国はBRI推進方針を変更すべきでないこと、いたずらに危機を誇張するのではなく、むしろ「化危為機」、つまり危機を機会に変えていくことが必要で、パンデミックを契機にBRIを新たな発展段階に引き上げていくべきとの論調を展開している。

 

例えば人民大学国際関係学院王義桅教授はBRI国際協力ハイレベルTV会議に対するコメントとして、パンデミックに伴い、中国内外で、①BRI投資に向かう資金が枯渇する、②BRI沿線諸国・地域は大きな打撃を受けており、債務返済ができなくなる、③反グローバル化の流れが強まり、中米貿易戦争が悪化する中でBRIの先行きも暗い、といった3つの懸念が流れているが、会議はそうした懸念を払しょくしたとし、これまでのBRIは「平和」「繁栄」「開放」「創新(イノベーション)」「文明」という「5つの路」を想定していたが、「協力」「健康」「復興」「成長」に重点をシフトさせていくべきだとしている。

 

次回以降は、パンデミックがBRIの展開にいかなる影響を及ぼすか、経済要因と政治外交要因の両面から複数の論点を挙げて考察する。

 

 

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