絶えず動いて落ち着きがない、話すときに視線が合わない…。一見すると、発達障害があるのか、それとも本人の性格や気質の問題なのかわからない子どもが増加しています。今回は、ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもに見られる特徴や、未だ世の保護者を苦しめる「愛着障害」という誤解が生まれた背景について解説します。※本記事は盛岡大学短期大学部幼児教育科教授である嶋野重行氏の著書『もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

自閉症の子を持つ母親を苦しめた、「精神科医の見解」

1968年にオーストリアの精神科医であるB・ベッテルハイムは著書『自閉症・うつろな砦(とりで)』(黒丸正四郎訳、みすず書房、1973年)のなかで、自閉症は生物学と環境の両方が原因で生じるとしました。

 

ところがその著書で取り上げた症例は、自閉症が不適切な母親によって引き起こされることを示すのみで、自閉症の子どもの親はよそよそしく、冷淡であり、精神病理に苦しんでいるとしたのです。彼の見解によると、この障害は本来生物学的なもので、当の子どもに対する母親のネガティブな態度が生物学的障害を出現させるのだろうというものでした。

 

そして、当時の心理学者のH・ハーロウの針金サルと布サルにミルク瓶をつけた実験から、早期からの幼児と母親のやりとりの異常が愛着障害をもたらしうると考えたのです。

 

ベッテルハイムの見解は、子ども時代と大人になってからどのような人間関係を確立するかは母子関係によって決定されるという、それまでのフロイト派の精神分析の考えを正当化するものでした。「不適切な養育」は「黒いミルク」とされ、その後は養育態度を問題とし、以後数十年にわたって世の母親を苦しめたとされます。

 

ベッテルハイムの見解は、未だ世の母親を苦しめている
ベッテルハイムの見解は、未だ世の母親を苦しめている

 

さらにベッテルハイムは、自閉症者とナチス強制収容所の一部の犠牲者は、不適切で表面的な愛情を発達させ、アイコンタクトをほとんどせず、外の世界から自らを閉ざしてしまうという反応を示すと論じました。

 

人格が十分に形成された大人の囚人は、長年監禁された経験でも、精神的に回復することができたのに対し、自閉症のある子どもの場合は、最初から虐待されていたことから、憎しみに対抗する能力を築く機会が半分もないと考えたのです。本の題名のとおり、砦のなかに囚人のように閉じこもっている本当のわが子がいるイメージをつくりだしたとされます。

 

 

※本記事は連載『「気になる子ども」との向き合い方』を再構成したものです。

 

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もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方

もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方

嶋野 重行

幻冬舎メディアコンサルティング

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