日本では、2000年以降、タワーマンションが乱立する状態になっている。空き家が急増する中、これ以上、大量に住宅を供給する必要はあるのか?またマンションには欠かせない大規模修繕も、タワマンは多額の費用がかかり、破綻の兆しを見せている。いま、タワマンは「限界」にきていると、住宅ジャーナリストは指摘する。本連載は榊淳司著『限界のタワーマンション』(集英社新書)より一部を抜粋、編集した原稿です。

「タワマンの街」武蔵小杉はさらに発展していけるか

タワマン住民の関心事は「資産価値を守ること」

 

前述のように、まちづくりの会では、2017年6月から8月にかけて武蔵小杉駅周辺の居住者に、タワーマンションに関するアンケートを行っている。3000戸に配布し、約450件の回答を得た。タワーマンション居住者からも30件の回答が寄せられた。

 

それによれば、住みよいまちづくりのための意見としては、「超高層マンションはもういらない」とする意見がトップで8割近くとなった。

 

また、不便に感じる点として「ビル風が強い」が最多で72パーセント、「駅の混雑が大変」は55パーセント、「駅周辺に公園や緑地がない」は41パーセントと続いた。

 

まちづくりの会としても、これ以上、武蔵小杉にタワーマンションを建てないでほしいと自治体に要望を出しているが、この件で新住民であるタワマン居住者との連携はあまりうまくはいっていないとのことだった。このアンケートでは、タワマン居住者も3割が「もう建てないでほしい」と回答してはいたが、自分がタワーマンションに住んでいて、もう建てないでほしいというのは、なかなか発言しづらいだろう。

 

一方、武蔵小杉駅の混雑緩和を目指している良くする会の人々が、あるタワマン住民と直接話したところ、「駅の混雑を強調しないでほしい」と言われたそうだ。そこで、「タワーマンションに住むみなさんの関心事はどんなことですか?」と尋ねたら、「資産価値を守ることです」と返されたそうだ。つまり、駅の混雑を強調すれば、武蔵小杉に住もうとする人々が減り、自分のマンションも売れなくなると考えているのだ。しかし、資産価値を守るのと引き換えに、自らの居住快適性を放棄するのは本末転倒のような気がするのだが……。

 

このように、古くから住む住民と新住民であるタワマン住民との間には深い溝ができている。この例に限らず、地元の自治会が主催する盆踊りなどの祭りも、タワーマンション住民は参加するだけで、運営には関わらないなど、旧住民とのコミュニケーション不足も指摘されている。

 

武蔵小杉では、インフラの崩壊のみならず、コミュニティの分断も生まれているのだ。なぜこんなことになったのか?

 

武蔵小杉エリアは2008年頃からタワーマンションの竣工ラッシュとなっている。2018年末までに合計14棟、7000戸超の住戸が完成。そのほとんどが完売して人が住んでいる。単純に1住戸に3人としても約2万1000人の住人が増えたことになる。

 

タワーマンションを建設するには、行政が容積率を緩和しなければならない。武蔵小杉の場合、規制を緩和するのは川崎市だ。タワーマンション内に公共施設が設けられている場合は、川崎市からその建設に対して補助金も出ている。

 

この武蔵小杉という郊外の街で、これほど過密にタワーマンションを建設する必要性がどれほどあったのだろうか。

 

また、これらのタワーマンションを購入して住んでいる30代から40代の人々は、あと30年もすればほぼ現役を離れて年金生活となるはずだ。その時に、1住戸あたり300万円超と予測できる大規模修繕工事の費用は、管理組合の積立金としてきちんと積み上がっているのだろうか。詳しくは第2章で触れるが、積立金不足に陥っていると思われるタワマンは、実はかなり多い。もし足りないとすれば、臨時の徴収ができるのだろうか。

 

大規模修繕が予定通り行われないとすると、あとは廃墟化への道が待っている。過密に立ち並んでいるタワーマンションのいくつかが廃墟化した場合、この武蔵小杉という街はどうなるのか。

 

今、この街は輝いている。しかし、30年後には果たしてこれほどの輝きを維持しているだろうか?

 

榊 淳司
住宅ジャーナリスト

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限界のタワーマンション

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榊 淳司

集英社新書

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