「不動産」は分割できない財産です。そのため、公平さを加味して「共有名義」を選ぶ相続人も少なくありません。しかし不動産の共有こそ様々なトラブルを引き起こす原因です。相続トラブルを回避する有効手段には「遺言書」がありますが、遺言書があっても共有状態に陥ることも…。親亡きあと困ることのないように、実家が共有状態になる原因や、共有化に伴うリスクを学びましょう。※本連載は、司法書士・杉谷範子氏の著書『介護とお金の悩みを実家で解決する本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

不動産を共有することのリスク

以上のように、さまざまな理由で不動産を共同で所有(共同名義人)すると、次のようなリスクを伴うことになります。

 

①共有者全員の合意がないと物事が進まないリスク

 

不動産の売却や賃貸、共有の土地に建物を建てること、土地を担保に融資を受けること、土地の境界を確定することなど。土地を担保に融資を受ける場合、共有者全員の合意があっても不動産が共有だと審査が通らないこともあるようです。

 

②共有者のうち一人の判断能力が低下するリスク

 

共有者のうち一人でも判断能力がなくなると、その人の持ち分が100分の1などわずかであっても共有者全員の合意が得られないため、不動産全体の変更・処分等ができなくなります。

 

③共有者のうち一人に相続が発生するリスク

 

共有者の一人に相続が発生すると、共有者がさらに増加します。増えた相続人のなかに面識のない人や仲のよくない人、すでに重い認知症の人がいたりすると、相続人全員の同意を得ることがますます難しくなります。

 

④共有物分割訴訟に発展するおそれ

 

不動産のように分割できない財産が共有の場合は、全員の合意がないとできないことが多いので、制限のついた財産を有することになります。そのため、共有者で話し合いが整わない場合には訴えを提起し、共有物の分割を請求し、共有状態を解消する権利が認められています。

 

共有物の分割は、ア.現物分割(不動産そのものを分ける)、イ.競売(売却代金を分配する)、ウ.価格賠償による分割(一人が不動産所有者となり、ほかの共有者には金銭が支払われる)という3つの方法があります。

 

つまり、共有不動産にして、もめて話し合いができないと競売で売られてしまうこともあるのです。

 

⑤固定資産税は持ち分しか持っていなくても、共有者にはそれぞれ全額を支払う義務がある

 

不動産には、毎年1月1日現在の所有者に固定資産税がかかりますが、共有不動産は持ち分に応じて税金が按分されるわけではありません。持ち分に関係なく、共有者全員が連帯して全額を納付する義務(連帯納税義務)があります。

 

もし、共有者が税金の全額を払ったら、他の共有者に立て替え分を返すように自分から請求しないといけません。立て替え分を支払ってもらえない場合は、強制的に取り立てるしかありませんが、裁判手続きをすることになりますので、かなり困難を伴います。

 

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杉谷 範子

司法書士法人ソレイユ 代表

司法書士

 

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著者:杉谷 範子

税務監修:成田一正

近代セールス社

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