
古くからある「なさぬ仲」との言葉通り、配偶者の連れ子と良好な関係を保つのは、並大抵ではありません。とはいえ、家族の歴史を刻みながら信頼を築けば、血のつながりに関係なく「真の親子」になると信じたいのが人というもの。実際に、ゆるぎない信頼で結ばれているケースもあるでしょう。しかし残念ながら、相続を機に、それまでの家族関係が崩壊する例もあります。不動産・相続専門弁護士の山村暢彦氏が、実際の事例をもとに解説します。
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信頼していた継子が、夫の死を境に「豹変」
ある日筆者のもとに、高橋幸子さんという高齢女性から、相続について相談があるとの問い合わせがありました。とても焦っている様子だったため、急いで仕事をやりくりして事務所に迎えると、ひどくおびえた様子の幸子さんは、あいさつもそこそこに、突然叫ぶように話しはじめました。
「先生! 不動産の権利証や通帳や私の実印を全部、あの子が、あの子が奪っていったんです!」
最初に飛び出したこの言葉を聞き、筆者には、ただごとではない家族の争いが見えました。場合によっては、対処に緊急を要するかもしれません。
幸子さんに応接室のソファを勧めて少し落ち着かせたあと、細かな事情を聴いてみると、夫が死亡したとたん、夫の連れ子である一人娘・久美子さんの態度が急変し、予想だにしなかった行動に出ているというのです。
【家族構成】
幸子さん :相談者(70代、女性、相続人)
被相続人 :幸子さんの配偶者・久美子さんの父親
久美子さん:幸子さんの配偶者の連れ子(40代、幸子さんと養子縁組済み)
【相続財産】
自宅不動産(約3,000万円、幸子さんと共有名義)
預貯金(約2,000万円)
久美子さんは、「お父さんは息を引き取る数日前に、全財産を私(久美子さん)に渡すといった」「お父さんは口頭で遺言した」との旨を激しく主張し、財産すべてを奪おうとしているということでした。しかも、幸子さんを大声で脅迫するだけでなく、果ては襟をつかんで激しく揺する、引きずるという、暴力行為まであったそうです。
暴力的になった久美子さんに恐れをなした幸子さんは、いわれるがまま、自宅不動産の権利証や幸子さんの実印、亡き夫の預金通帳を渡してしまいました。
しかしその後、権利証、実印、通帳を返してほしい、相続についておだやかに話し合いたいという希望をたびたび伝えたにもかかわらず、久美子さんはいうことを聞きません。あろうことか、幸子さんの家に何度も訪れては「この後妻!」などと罵る始末です。
挙句の果てには、家の周りを徘徊し、近所の人に幸子さんの悪評を吹き込むだけでなく、玄関前で大声を上げるなどの常識を逸する行為を繰り返したとのこと。幸子さんは心身ともに強いストレスを受け、妹夫婦に相談したところ、弁護士に任せたほうがよいという結論に至ったとのことでした。
