新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

需要が消滅した宿泊業界はどこまで耐えられるか

私は、コロナ禍が1918年から20年に流行したスペイン風邪のときのように、やがては人類の手によって終息させられていくと考えています。また、コロナ禍に対する意識が高じて、人々がまったく移動することをやめてしまうとは思っていません。

 

しかし、ワクチンが開発される、あるいはさまざまな感染症対策が早急に講じられるようになったとしても、コロナ前の水準にまでインバウンドが戻るには、おそらく2~3年はかかるのではないかと見ています。

 

したがって宿泊業界は、しばらく我慢の時間を過ごすことになりそうです。ただ、この業界は財務状況が脆弱な企業が多いので、この間において施設の淘汰がかなり行なわれるのではないかと予想しています。

 

特に18年から20年にかけて都内や京都、大阪では多数の新築ホテルが立ち上がりました。これらのホテルは、土地代が高く、東京五輪を控えて建築費もうなぎ上りの状況下に建設されたものが多いです。営業計画もインバウンド需要を過大に当て込んだものが多かったため、需要が消滅した現在では、借入金が過多な施設では経営が持たなくなるところが増えると予測しています。

 

淘汰される対象はホテルや旅館だけではありません。ホステルの看板で急成長した簡易宿所や、18年に新法が制定され、設置数を伸ばしてきた民泊のような小資本の施設にとっては、2~3年という時間は死亡宣告をされたに等しいものです。実際に民泊件数は20年5月には前月比で減少に転じました。

 

そうした意味では今回のコロナ禍は、インバウンドの急増や東京五輪の需要を当て込んで雨後の筍のように続々と新築ホテルを建設してきた宿泊業界に、冷や水を浴びせる結果となりそうです。しかし考え方を変えてみれば、今回の騒動で一部「無理筋」で進出してきた有象無象が退場し、業界として再出発するには良い機会になったとも言えるのではないでしょうか。

 

ポスト・コロナにおいて宿泊業界が再出発をする際に、むしろ気をつけたいポイントは宿泊需要の変化です。コロナ禍において、多くの企業で出張を問い直す動きが顕在化しています。

 

オンライン上での会議を行なうことを余儀なくされた多くの企業では、逆に社内会議程度であれば、十分できるという認識を持つに至りました。たとえば本社と支社、あるいは子会社間の会議ではこれまで互いが出張をして顔を合わせてきたのがzoomですませるようになると、出張そのものが削減されます。

 

これはビジネスホテルにとっては相当の痛手になりそうです。ただでさえ、今後の日本は人口減少の影響でビジネスに携わる人の数が減少することが予想されていることから、ビジネスホテルの経営には注意が必要です。

 

いっぽうでシティホテルが危惧する宴会需要などは、感染症の終息とともに復活してくるものと思われます。またリゾートホテルなども、インバウンドの回復と国内富裕層の増加があいまって、こちらの需要はむしろ今後はかなり伸びるのではないかと考えます。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

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