本記事では法定相続の理不尽さを見てみましょう。法定相続では、兄弟全員同じ相続分しかもらえません。誰かひとりが親と同居し、介護をしても、余程のことがない限りその世話をした分は相続分に反映されないのです。親孝行をした人はタダ働き、何もしなかった人は笑う相続人となっていきます。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
「そんなの無視だよ」三郎さんが得たものは結局…
三郎さんは、「葉子さんが認知症になってからの面倒を自分と優子さんが見てきたこと、その労働の価値が300万円ぐらいあること」を説明しましたが、四郎さんから、「家と農地は三郎兄さんにあげるんだから、そんなのは無視だ」と軽く一蹴されてしまいました。
こうして、結局、三郎さんが得たものは、家と農地、それに1000万円の預金だけとなってしまったのです。
こうして見てくると、法定相続って、なんて不公平だと思いませんか。被相続人との関係の濃さは全く考慮されず、生まれたときの親族関係だけですべてが決まってしまいます。息子の嫁は、どんなに義理のお父さん、お母さんに尽くしても、相続はできません※。
被相続人が遺言書に「自分の財産を嫁に譲る」と書いていれば別ですが、自分の財産を誰に譲るかについて生前にあまり考えようとしない日本の文化では、遺言書を書く人は極めて稀です。
こうして、不公平な相続が横行します。相続排除(親に対する侮辱、虐待をしたことを理由として、相続人たる地位を奪う家庭裁判所の審判)をされない程度に親との関係を疎遠にしておく。親が経済的に困窮してもほったらかすが、虐待のようなことはしない、これが一番得をする子供ということになります。これが俗にいう「笑う相続人」というやつです。嘆かわしいことではありませんか。
※編集部注・・・相続法の改正により、2019年7月1日から「特別寄与料」を請求できるようになった。相続人以外の親族で被相続人に対して特別な寄与をした者(長男の嫁等)は、相続人に対して金銭を請求できる。ただし、特別寄与者と相続人との協議により決定するため、話がまとまらないケースも多い。
植田 統
青山東京法律事務所 代表弁護士
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青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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