弁護士法人みずほ中央法律事務所・司法書士法人みずほ中央事務所の代表弁護士である三平聡史氏は『ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表』(日本加除出版)のなかで、富裕層の離婚問題について様々な事例を取り上げ、解決策を提示しています。

両親への送金計700万円…「夫婦のお金」だったのか?

【ケース2】

男性(医師・夫)と女性(妻)は婚姻し、2人の子をもうけました。夫の父Aは、50歳の時に大きな病気を患い、その後、定職に就けなくなりました。


Aは、不定期な就労からの収入によりAとAの妻B(夫の母)の家計をまかなっていましたが、経済的な余裕がない状況になりました。夫は、何度かAとBに対して金銭を送金していました。送金額は1回で50~100万円程度、10年間の間で合計約10回で、送金の合計額は700万円に達していました。

 

その後、夫婦の仲が悪くなり、離婚する方向で協議が進みましたが、財産分与に関して意見が対立しました。婚姻後に形成した夫・妻の名義の預貯金・金融資産は、合計8000万円相当でした。

 

 

<争点(見解の違い)>

夫:A・B(両親)への送金は「親族の扶養(扶助)」という性質であり、「夫婦共有財産を減少させる目的」ではない。分与対象財産には含まれない。妻の寄与割合は30%である。分与額は2400万円である。

妻:夫からA・B(両親)への送金分である約700万円も分与対象財産に含まれる。分与対象財産の合計額は8700万円となる。妻の寄与割合は50%である。分与額は4350万円である。

 

<結論>裁判上の和解成立

離婚する。夫が妻に4000万円を支払う。夫からA・B(両親)への送金した金額を分与対象とはしない。妻の寄与割合は50%とする。

 

<合意成立のポイント>

 

1 親への送金の扱い

Aの疾病によりA・Bの生活は苦しい状況にあり、他方、夫(と妻)の家計は比較的裕福でした。また、夫婦共有財産であることについて意見が一致している(争いのない)財産が8000万円であることに対して、問題となっていた夫からA・B(両親)への送金の金額は700万円であり、相対的に小さい割合でした。

 

さらに、争いのない夫婦共有財産の金額の絶対額自体が大きい金額でした。以上のような状況から、夫からA・B(両親)への送金については、扶養の範囲内といえる傾向が強いと思えるものでした。つまり、両親への送金は適正な支出であるので、分与対象財産に算入しないこととなりました。

次ページ最終的に妻側の提案を夫は受け入れて…

本連載に掲載しているケースは、解決に至った事例を基にして、その一部を変更し、また複数の事例を組み合わせてまとめたものです。もちろん、同種案件の処理において参考となるよう、本質的な判断のエッセンスは残してあります。一方で、判断プロセスや解決結果にはほとんど影響を及ぼさない事情については記載を省略しています。なお、ケースの背景事情等については、あくまで架空の設定であることをおことわりしておきます。

ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表

ケーススタディ 多額の資産をめぐる離婚の実務 財産分与、婚姻費用・養育費の高額算定表

三平 聡史

日本加除出版

高額所得者の場合の財産分与、婚姻費用・養育費算定はどうなる? 標準算定表の上限年収を超えたときの算定方法は? 54の具体的ケースや裁判例、オリジナル「高額算定表」で解説! ●不動産や会社支配権、その他高額資産を…

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