「社長の教祖」と異名を持つ一倉定氏は経営者をよく叱った。叱られるたびに多くの経営者は目を輝かせた。社長の教祖は「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言したという。なぜ、令和の時代に「一倉定」が注目されるのか。本連載は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)からの抜粋です。

一倉社長学の教えに潜む「徹底力」という言葉

厳しい環境のときこそ発表会が活きる

 

5月のある日、毎年発表会に参加していたT社の社長から電話をもらった。「7月が発表会であるが、今期は見送りたい」旨の相談であった。ほぼ決めている様子は声のトーンから明白である。理由は「業績の低迷で……」と、歯切れが悪い。

 

作間信司著『一倉定の社長学』(プレジデント社)
作間信司著『一倉定の社長学』(プレジデント社)

即座に、「絶対やるべきだ!一番大事な行事をここでやめたら、社員は何を信じて頑張るんだ」と応じたが、1度萎えた気持ちはなかなか戻らない。その後、何人かの友人の社長にも中止の意向を伝えようとしたが、全員が「厳しいときこそやらないとダメだ!」と発破をかけられ、やっと本人もその気になった。

 

それまでは好調に進んでいたから自信満々だったが、見栄も手伝って悪い決算には耐えられなかったのだろう。結果的には前期の反省を充分に織り込んで計画書も念入りに作り込み、毎月の実行チェックも抜かりなく実施したため翌年は好決算となり、激励とともに叱ってくれた社長仲間にお礼を言うことしきりであった。

 

一倉先生の教えの中に、見落とされがちだが「徹底力」という言葉が出てくる。好調が続くと甘くなることは先に述べたが、「経営計画書」を作ることで満足してしまい、実行確認が幹部も社長もおざなりになっていくのである。

 

事業であるからどうしても景気を含め波はあるが、業績の振るわないときこそ啓示と思い、「全ては社長の責任」を思い出し絶対に逃げないこと、他責としないことである。二代目社長、長く続く会社の後継社長にとっては特に大事な社長の要件だと思っている。

 

社長にとっての10年間はあっという間

 

継続して「経営計画書」を作り続けると会社の質の向上とともに、計画書も我社独自の風格が出てくる。一倉会の幹事を長年やっておられた会社の社長室に伺ったときに、1冊目の「経営計画書」から今日に至るまでのファイルを見せていただいたことがある。記念すべき1冊目は10ページあるかないかの薄いもので、手書きコピーを綴じたものであった。4年目あたりからA4判のカチッとした冊子になり、30数冊に及ぶ会社の歴史が記されていた。

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一倉定の社長学

一倉定の社長学

作間 信司

プレジデント社

「社長の教祖」と異名を持つ伝説の経営コンサルタントは経営者をよく叱った。しかし、叱られるたびにに多くの経営者は目を輝かせたという。ユニ・チャーム、ドトールコーヒー、サンマルクカフェなどの創業者たちは教祖の一喝か…

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