自分の財産を渡したくない相続人がいる…そういう人は決して少なくないはずです。しかし、相続人である以上は最低限の額を受け取る法的な権利があります。いくら効力の強い遺言書であっても「一円たりとも渡さない」という遺志の実現は極めて難しいのが実情です。そこで今回は「生命保険を活用した遺留分対策」をテーマに、特定の相続人にだけ財産を渡すことができる合法的な手段を解説。※本連載は、司法書士さえき事務所所長の佐伯知哉氏の書き下ろしによるものです。

現預金を生命保険に組み込み、「遺留分の請求」を阻止

そこで考えられる解決策が「生命保険を利用した遺留分対策」です。生命保険金の受取人を相続人にしていた場合、生命保険金は受取人固有の財産となります。

 

具体的にはXさんが生命保険契約を締結して、手持ちの現預金を生命保険に組み込みます。そして保険金の受取人はAさんやBさんにしておきます。そうすると、本来は遺産としてカウントする必要のあった現預金が遺産から外れることになります。Xさんの死後は、生命保険金としてAさんやBさんは現金を受け取ることができるようになるのです。

 

極端な例を挙げると、Xさんの遺産が現預金のみ5000万円とします。これをすべて生命保険に組み込んで、保険金の受取人をAさん2500万円、Bさん2500万円としてしまうと、Xさんの遺産はゼロになるのでDさんは遺留分を請求することができなくなるのです。

 

これは極端な例ですが、不動産と現預金は多くの方がもっている財産になるので、現預金を生命保険に組み込むことによって遺産を目減りさせることができるのです。

 

なお、相続税の計算上は生命保険金も相続財産としてカウントしますので、この方法によって法律的に遺産がゼロになったとしても相続税もかからなくなるということはありません。遺産の考え方については法律と税務で異なるのでご注意ください。

「著しい不公平」があれば、生命保険金も遺留分の対象

手許の現預金を生命保険に組み込んだ場合、生命保険金は「原則として」遺留分の対象にはなりません。ただし、例外があります。他の相続人との関係で「著しい不公平」が生じるような場合であれば遺留分の対象となる判例があります。

 

<平成16年10月29日最高裁判決要旨>

被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

 

それでは、「著しい不公平」とは、どういったものが考えられるのでしょうか。

 

今回の事例で例えて言うと、Xさんの遺産のすべてが現預金であった場合に、そのすべてを生命保険に組み込んで、保険金の受取人をAさんやBさんではなく、逆にDさんを指定してしまったような場合です。

 

そうすると、Aさん、Bさんがあまりにも可哀想です。何しろ、Xさんの介護や身の回りのことをずっとお世話してきたのはこの二人なのですから。このような事情があれば、Aさん・Bさんの二人と、Dさんとの間には、著しい不公平があると考えられます。この場合は、AさんとBさんは、Dさんに対して遺留分の請求をすることが可能になると考えられます。

 

他にも、「特定の相続人が受取人となっている生命保険契約」が遺産総額の大部分を占めているような場合においても、相続人の間での不公平が生じます。ただし、これはケースバイケースです。実際の介護や同居の度合いなどを考慮したうえで、本当に「著しい不公平」に該当するかどうかを考えなくてはならないでしょう。

 

以上、今回は「生命保険契約を利用した遺留分対策」について解説させていただきました。このように、生命保険は遺留分対策としても使うことができますし、一定の相続税の非課税枠もあるので相続税対策として使うことも可能です。


ただし、遺留分対策に使用する際は、場合によっては遺留分の対象となってしまうこともあるので、遺産の中でどれだけの割合の現預金について生命保険に組み込むかの妥当性は慎重に判断しましょう。

 

★佐伯知哉先生の解説動画はこちら! ↓

 

【動画/司法書士が解説!生命保険を利用した合法的な「遺留分対策」とは?】

 

佐伯 知哉

司法書士さえき事務所 所長

 

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