白内障とは、加齢によって目の中でカメラのレンズのような役割を担う水晶体が白く濁り、視力が低下する病気です。60代で約半数、80代に至ってはほぼ全員が、程度の差こそあれ白内障にかかります。高齢化に伴い、今や「目の国民病」と言っても過言ではないこの病気について、眼科専門医が症状と治療法を平易に解説します。※本記事は『図解 白内障かなと思ったら読む本』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

白内障手術の「4つのプロセス」

白内障手術の手順は大きく①「切開」②「水晶体の核の除去」③「水晶体皮質の除去」④「眼内レンズの挿入」の4つに分けることができます。ここからは各手順について、当院で実際に行っている方法をふまえ説明していきます。

 

 手術のプロセス1  切開

 

まず、古くなった水晶体を除去し新しい眼内レンズを入れるため、眼の表面を切開します。切る場所や方法はいくつかありますが、角膜を切る「角膜切開」と角膜と白目(強膜)の境を切開する「強角膜切開」の2つが主流です。当院では基本的に角膜切開、2・4㎜程度切開します(小切開)。

 

かつては10㎜程度切らないと水晶体が取り出せず、傷口が大きいために乱視や感染症のリスクがありましたが、今は小さい切開ですむようになり、そうした心配はなくなりました。小切開のため傷の影響は非常に少なく、角膜に歪みが出ることもなく乱視も生じることは少ないです。なお、角膜には血管が通っていないため、切り口からの出血も起こりません。

 

 手術のプロセス2  水晶体の核の除去

 

眼の表面を切開したあと、眼内にある水晶体を取り出しますが、そのままの形では取り出しません。ふくろである水晶体囊を残して中身の水晶体を取り出さないといけないからです。

 

まず、水晶体を包んでいるふくろである囊の前部分を切開します。数ミクロン(1ミクロンは1000分の1㎜)の非常に薄い膜なので、不用意に破いたりしないよう慎重に切り開きます。

 

そしてあらわになった水晶体に、超音波を発する専用の器具を当てます。この超音波のエネルギーで、水晶体を砕くのです。水晶体の硬さによりますが数分で粉砕されます。

 

昔は粉砕の技術が発達していなかったので、眼の切開も大きくせざるを得ず、そのために角膜が損傷するなどの合併症が起こりやすくなっていました。しかし今はミクロン単位、砂粒より細かいレベルまで安全に砕くことができますので、切開も小さく、安全に手術が行えるようになっています。術式の正式な名称は「超音波水晶体乳化吸引術」といいますが、これは白い液状に見えるほど水晶体を細かくできることからそう名付けられています。

 

ただし、どんなに細かくといっても砕く以上、かけらが飛び散り眼を傷つけないとも限りません。そこで、あらかじめ周囲をクッション性のあるヒアルロン酸で「養生」します。特に、角膜を作っている角膜細胞は再生ができませんので、傷付けてしまわないよう角膜の裏側にぴったりと粘度の高いヒアルロン酸を密着させ、守ります。こうした養生を「ソフトシェルテクニック」といい、一般的には角膜細胞が少ないケースにとられる処置ですが、当院では万全を期して、全症例に行っています。

 

水晶体は、超音波で砕きながら、同時に眼の外へ吸い出していきます。このとき囊の後ろ側、後囊と呼ばれる部分を傷つけないよう、細心の注意を払います。後囊が破れてしまうと、眼内レンズを囊の中に固定することができず、そこで無理に入れてしまうと眼内レンズが目の奥に落ちてしまいます。

 

さらに深刻なのは、砕いた水晶体のかけらが眼の奥に落ちてしまう恐れがあることです。小さな破片であれば特に何事もなく時間とともに溶けてなくなってしまうのですが、大きな水晶体のかけらが落ちてしまうと目の中で強い炎症を起こしたり網膜剝離という失明につながる重篤な合併症を起こしてしまうことがあります。

 

このリスクは、白内障が進んでいるほど高くなります。進行した白内障では、水晶体が硬いため取り出すまでに時間がかかり、超音波を長く当て続けることで囊が破れやすくなるからです。もし、水晶体が硝子体に落ちてしまうと、白内障手術とは別に、さらに大がかりな硝子体手術をしなければならない事態になります。そうならないためにも、白内障は早めの手術が望ましいといえます。

 

 手術のプロセス3  水晶体皮質の除去

 

水晶体は中心の核といわれる部分とその周りを覆っている皮質の部分があります。超音波で核を取り除くと、この皮質だけが囊の内側に残った状態になります。この皮質は非常に柔らかいため、超音波をかけなくても吸引する器具だけで取り除くことができます。この際にも誤って後囊ごと吸引して囊を破らないように気を付ける必要があります。

 

ここまで終わると囊の中は空っぽの状態になります。さらに囊に付着した細かい水晶体細胞を丁寧に除去することで後発白内障の発生を抑えることができます。これまで行うと当然その分時間は取られますが、当院ではそこまで気を使って手術を行っています。そこで時間を短縮しようとたいした時間ではありません。

 

 手術のプロセス4  眼内レンズの挿入

 

水晶体を取り除くと、空っぽになった囊、つまり水晶体が入っていたふくろだけが残ります。この中に、水晶体の代わりとなる人工の眼内レンズを入れます。この時点で、囊は中身がない状態なので、しぼんでいます。そこで、作業しやすいよう、まずクッション代わりになる粘度の高いヒアルロン酸を囊に注入しふくらませます。

 

そこにレンズを入れるのですが、このとき最も注意しなければならないのが感染症です。術後の感染症を起こす原因の一つに、レンズを入れる際に眼の表面についた菌が持ち込まれることが指摘されています。菌が眼内に持ち込まれてしまったら、術後に眼の中で菌が繁殖してしまうリスクがあるからです。そんなことにならないよう、当院では眼の表面を念入りに消毒してからレンズを挿入します。

 

乱視用レンズの場合は、入れる向きがその人の乱視の向きによって決まっています。これがずれてしまうと、適切に矯正できないため、角度を合わせて慎重に入れなければなりません。当院では、手術アシスト機器「カリスト・アイ」を用い、寸分の誤差も出ないようにしています。

 

レンズが入ったら、〝養生〟に使っていたヒアルロン酸などをきれいに取り除き、眼の中をしっかり洗浄します。その後、目の硬さ(眼圧)を整えるために、目の中に房水と同じ成分の溶液を注入します。当院ではこのとき、抗菌薬の入った溶液を使っています。これもレンズ挿入時と同様、感染症を起こさないためです。最後に眼内を洗うのは、決まった手順としてすべての医療機関で行われることですが、どの程度丁寧であるかは医師によってまちまちです。当院のように、感染に気を使って、抗菌薬を混ぜる医療機関は少ないのではないでしょうか。

 

これで手術は終わりです。切開部分は非常に小さいため術後自然に閉じていくので、縫い合わせる必要はありません。

 

次ページ手術後の流れ…何より重要なのは「感染予防」

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