一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

ちょうど私が静岡病院に赴任した2012年当時は、インクレチン関連薬と呼ばれる新たな糖尿病治療薬が矢継ぎ早に投入されたころでした。

 

そこで、SU薬に依存したクラシカルな治療方法を見直し、SU薬をできる限り使用せず、持効型インスリンをベースとして、インクレチン関連薬を含めた夜間低血糖を起こしにくい薬剤を組み合わせつつ、最新の知見に基づいた治療を推し進めていけば、「夜間低血糖で患者さんが救急搬送されてくる」といった症例を減らせる。そういった認識の共有が、順天堂大学の糖尿病内科医全員の間でその当時すでになされていました。

患者、家族、地方財政に配慮し、薬の見直し決断

一人暮らしの高齢者が低血糖を起こした場合は特に、救急車で搬送されることは珍しくありません。


伊豆半島では一人暮らしの高齢者が多く、場所によっては救急車で1時間以上かけてやってくる患者さんもいました。伊豆半島の先端の南伊豆や下田からは、まさしく救急車で「天城越え」をして当院へ1時間半くらいかけて搬送されることもあります。もちろん度重なる長距離の救急車搬送が続けば、地方自治体の財政圧迫に繋がることも考えられます。

 

また、一人暮らしの高齢者が救急搬送されたとなれば、都心で暮らす子どもたちにも連絡がいきます。そうすると、息子さんや娘さんも慌てて仕事を切り上げたり、子どもを近所に預けたりして、大急ぎで東京や横浜から新幹線や自家用車で伊豆長岡まで駆けつけることになってしまいます。

 

そもそも普段から低血糖発作を起こさないようにすることができれば、患者さんや現場で働く医療者はもちろんのこと、患者さんの家族や地域行政の負担も軽減することができます。

 

SU薬を使用しない治療方法は、2012年当時、世間一般からするとかなり斬新な考え方であったかもしれません。ですから、あまり大層なことを言うと周りから「若輩者が何を生意気なことを言っている」と叱られるかもしれないので、あまり口には出しませんでした。

 

しかし、私自身は、こういった治療を行うことが多くの人の役に立つという思いを持って、そして、何より患者さんのメリットも非常に大きいと考え、科長として思い切って、SU薬を極力使わないような治療法に積極的に切り替えていく決断をしました。

他科の入院患者も含め、処方薬を新タイプへと

すでにご説明した通り、糖尿病内科は自科の外来・入院患者さんを診療する以外にも、他科の入院患者さんの血糖コントロールも担っています。こういった他科に入院している患者さんにおいても、入院中にSU薬を極力使わない治療法に積極的に切り替えていきました※1。結果的に、診療内容を見直した患者さんは相当な数に上ったと思います。

※1齊藤大祐、杉本大介、河野結衣、佐藤文彦; Diabetes Frontier(27)3;392-7, 2016

 

さらに入院を機会に、糖尿病専門医の目線で血糖をしっかりとコントロールするのはもちろん、できる限りインスリンの注射回数を減らせるように入院期間中に食事療法など日常生活で最低限守るべき知識を得られるように取り計らうことにも力を入れました※1。そうすることで、退院時にはすでにインスリン治療を卒業される方もおられました(第17回でも言及)。

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