自分の居場所がなくなった絶望感が襲う
自分の居場所の重要性
老人ホームの食堂では、あらかじめ座る場所が決められています。
これは、座る場所をめぐって入居者同士で争いになることを未然に防ぐためと、入居者全員が元気に歩ける人たちばかりではないという理由からです。
入居者の中には、常時、杖を使用して歩く人たちがいます。さらには、車椅子を使用している入居者もいます。
杖を使用している入居者は、テーブルに着くと杖の置き場に苦労します。そこで、椅子の一部に筒のようなものを備え付け、杖をその筒の中に入れて保管するという方法を老人ホームの介護職員が編み出しました。
車椅子の入居者には、原則、椅子は不要です。というよりも、椅子があるとかえって邪魔になります。介護プランに「食事の時だけは椅子に移る」とされる入居者に対しては、椅子が用意してあります。これらの理由により、食事の際は座る位置が決まっているということになります。
私たちの日常でも同じような現象が起きているのではないでしょうか。会社の飲み会などでは、部長の席はここ、そしてその隣りはA課長とか、新人社員はオーダーを頼みやすい出入り口のところなどと、何となく決まっているものです。老人ホームも、集団生活なので、いくつかの親しい、気の合う小集団に分かれ、グループごとに席順が自然と決まっていきます。
私が老人ホームの職員だった頃、自分の席に他人が座っていたという理由で、何度もいざこざがありました。たかが食堂の席、しかし、されど席なのです。食事も摂らずに怒って自室に帰ってしまう入居者がたくさんいたことを思い出します。
思い起こすと、幼少期に小学校の授業中、先生から順番にさされ「次は、いよいよ自分の番だ」と思っていると、飛ばされ、次の列に。なんてことを皆さんも経験があることと思います。その時の何とも言い難い微妙な気持ち。自分は先生から嫌われているのかもしれないなどと余計なことを考えたものです。食堂のいつもの自分の席が違ってしまうと、大げさではなく、自分の居場所がなくなった絶望感のようなものがあるのだと思います。
小嶋 勝利
株式会社ASFONTRUSTNETWORK常務取締役
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