母親へのカウンセリングで「子の強迫性障害」が治癒したケース

うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

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前回の記事(過食嘔吐の女子大生…母「娘は何の病気ですか?」が危険なワケ)では愛着アプローチに関して、事例を用いて紹介した。今回も、愛着アプローチの理解をさらに深めるために、事例で解説したい。

「強迫症状」から周囲と馴染めず、学校も休みがちに

【事例:強迫性障害の高校生

 

高校二年生の男子生徒が、強迫症状や不安症状のため勉強や学校生活に支障が出ていると受診してきた。この男子生徒の強迫症状は、正確さにこだわってしまうというもので、文章を読んでいても、特定の語句の意味が曖昧にしかわからないと、そのことが気になって次に進めなくなってしまうのだ。

 

形容詞や副詞が、どの言葉を修飾しているのかといった文法的な構造が気になり出すと、そちらにばかり気がいってしまい、肝心な意味が頭に入ってこなくなる。問題を解いている途中でも、問題に関係のない言葉の意味や、文法的な構造が気になり出すと、解答がストップしてしまう。

 

レポートを書くにも、どうでもいいような些末なことが気になって、たとえば助詞の使い方を、「が」にすべきか「は」にすべきかといったことで悩んでしまう。適当にすればいいと言われるが、その「適当に」ができないのだった。こうした症状のために、勉強すること自体が怖くなり、手につかなくなってしまう。テストの勉強もレポートの提出も滞ってしまう。

 

適当にできない傾向は、友人とのコミュニケーションでも見られた。彼は、友達とバンドを組んでいたが、友達にかける言葉の一言一言についても、相手の反応が少し悪かったりすると、何か変なことを言ってしまったのではないのか、怒らせてしまったのではないかと気になって、そのことばかりを考え続けてしまう。変なことを言ってしまうのではないかという不安のために、言葉を選びすぎて、何も言えないで終わることも多い。

 

自分に自信がなく、どうせ自分はよく思われていないといった否定的な発言も多い。学業だけでなく、楽しいはずのバンド活動まで最近は負担になり、楽しめなくなっていた。学校を休むことも増えていたのである。

医学モデルに則り治療開始も、症状は酷くなるばかり

強迫性障害は、しないでいいとわかっていることをしないといられない強迫症状や、考えても仕方がないとわかっていることを考えてしまう強迫観念を特徴とする精神疾患である。強迫症状のため、あたりまえの日常の行動にも長い時間がかかり、生活に支障を来すことも多い。

 

このケースの場合は、考えなくてもいいとわかっていることを考え続けてしまう強迫観念の症状が強い状態だといえる。強迫性障害のうち、たとえば外出のときに鍵やガスの元栓を何度も確認しないと気がすまないといった確認強迫や、手を何度も洗わないといられないといった洗浄強迫など、比較的単純な強迫行為が中心の場合は、治療への反応も良く、改善しやすいといわれる。

 

それに対して、強迫観念のケースや、いくつもの症状がまじり合っているようなケースでは、一般に治療が難しいとされる。薬物療法も行動療法も効果が出にくいのだ。このケースの最初の印象は、だいぶ手ごわそうだなということであった。

 

しかし、このケースに出会った三年前の時点では、私にも、「強迫性障害は、愛着とは無関係な、純粋な精神疾患である」という思い込みがあった。実際、今日でも同じだが、強迫性障害の治療といえば、行動療法と薬物療法が定番であり、それ以外に有効な方法はないというのが「常識」であった。

 

したがって私も、医学モデルに則って、「強迫性障害」という診断のもと、定番の治療を開始したのである。すると幾分良くなりはしたものの、すっきりというのには程遠く、毎回来るたびに、同じ症状を男子生徒は訴え続けた。

 

私にできることといえば、ただそれを聞くだけであった。しかし、後から考えれば、彼が自分の症状や苦しさをありのままに言える場は、私といるときだけだったので、話を聞くことには、意味があったのだろう。

母親自身がカウンセリングを希望…意外な好影響が

ただ、そのうち何度か母親がやってきて、息子の病状について尋ねてくるという機会があった。最近の状態について説明しながら、ついでに他の話もする中で、母親は自分や家族の状況を話し始めた。夫婦仲、つまり彼からすると父親と母親の関係があまり良くなく、以前から衝突することが多いこと。そのことで母親自身、結婚したことを後悔することも多いこと。父親は本人が高校受験に失敗して以来、本人のことを否定的にしか見ていないこと。また、姉がいるが、弟に対するライバル心が強く、顔を見ると本人を傷つけるようなことばかりを言うこと、などを話してくれたのである。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そして、こちらからお願いしたというよりも、母親自身が、カウンセリングを受けたいと自分から希望されたのである。恥ずかしながら、私の中には、そういう治療オプションは、それまでなかった。「強迫性障害は、薬物療法と行動療法」という、医学モデルに基づく治療の選択肢しか想定していなかったのである。

 

私も半信半疑で、お母さん自身が苦しんでいるのなら、お母さんのためにもなるかもしれないというくらいの気持ちで、「では、やってみますか」と、カウンセラーを紹介したのだった。

 

ところが、それが思わぬ成果を生むことになる。紹介したカウンセラーが良かったのか、母親は定期的にカウンセリングに通い、息子のことはもちろん、自分自身や夫とのことも相談するようになった。すると不思議なことに、高校生の息子の状態が、明らかに良くなり始めたのだ。

 

母親の本人に対する理解が深まり、本人への接し方が、以前のように厳しいものではなく、本人の現状を受け入れたものに変化したということもあるだろうが、父親もカウンセリングに訪れたことをきっかけに、本人に対する否定的な態度を改めていったのである。

 

家庭内の空気が、緊張したものから和やかなものに変わり、母親の表情も明るく変化した。来た当初は大学への進学など夢物語の感があったが、一年半後、大学に進むと、むしろ生き生きと大学生活を楽しむようになった。

 

そして、医学モデルでは説明の難しいことだが、強迫症状もまったくなくなって、スムーズに生活できるようになったのである。

精神科医、作家

1960年香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などで困難な課題を抱えた若者に向かい合う。現在、岡田クリニック院長(枚方市)。大阪心理教育センター顧問。

著書に『愛着障害』『回避性愛着障害』『死に至る病』(以上、光文社新書)、『ストレスと適応障害』『発達障害と呼ばないで』(以上、幻冬舎新書)、『パーソナリティ障害』(PHP新書)、『母という病』(ポプラ社)、『夫婦という病』(河出書房新社)、『マインド・コントロール』(文藝春秋)など多数。

小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『DZ』『風の音が聞こえませんか』(以上、角川文庫)、『あなたの人生、逆転させます』(新潮社)などの作品がある。

著者紹介

連載親子、友人…対人関係が上手くいかない人へ!「愛着障害」を克服する方法

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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