どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

介護職員の離職防止は賃上げというウソ

私は前々から、介護保険事業は失業者に対する雇用政策の中で発展してきた業界であると言ってきていますが、まさに、資格さえ取得すれば、どのような人であっても、仕事にありつけ、一定の所得を得ることができるという仕組みになっているのです。ちなみに、昨今の現状では、資格さえあれば、ほぼ無条件で仕事に就くことができるはずです。

 

さらに、ホームの運営には、行政が定めたルールがあるので、事業者による「とっぴなアイデア」は原則すべて不適切とされ、どの事業者も同じような運営方法にならざるをえません。つまり、同業他社との差別化が難しく、どうしても差別化をするのであれば、自身の収益を犠牲にして、介護職員を他のホームよりも多く配置するか、看護師など付加価値の高い職員を手厚く配置するか。または建物を絢爛豪華にするとか、駅前立地にするなど不動産建設の視点で考える以外に方法はありません。

 

要は、サービス業だと言いながら、実態は自由な競争をし、創意工夫で解決できるような事業環境下にはないということなのです。

 

実は、これが、結果として職員が介護業界から逃げ出していく根本的な理由になります。サービス業だと言われるので、工夫してサービスの内容を考えても、「そのサービスはルール違反ですよ」と言われてしまう業界です。私もそうですが、介護業界に身を置いた者の多くが感じていることは、「余計なことはしないで、言われたことだけを忠実にやっていればそれでよい」という圧力です。

 

多くの有識者が、介護職員の賃金を上げないと職員の離職は止まらない、と主張しています。たしかに、賃金を上げることは、何もしないよりは効果はあると思います。しかし、今の実情の中で、賃金を上げるということは、事業者の収益が悪化するだけなので、得策とは言えません。

 

それより、配置基準を撤廃したり、資格で運営を縛ることをやめて、ホームの淘汰を市場に委ねれば、知恵のある事業者が、収益を上げながら職員に対し高い賃金を支払えるスキームを生み出せる可能性が出てくると思います。つまり、公的保険制度ではない介護事業を行なうことで、介護職員は介護事業に戻ってくると私は考えています。

 

低所得者には、セーフティーネットとしての介護保険制度を

 

つまり、低所得者向けには、公的な介護保険制度を維持しながら、必要な支援を提供する従来の仕組みを堅持し、一定以上の所得や資産がある人には、自由診療ならぬ、自由な介護サービスを自費にて提供する介護事業者を育成していくことが、職員不足を解消するための最善の方法だと、私は考えています。

 

そして、今の介護業界は数年でこのようになると考えています。低所得者に対しては、措置として、必要最低限のことを低価格で提供していく。老後の安心と当時に、介護職員に対する過度な期待をしないことを申し合わせる。そのことで、多くの収入は見込めないが、気軽に仕事ができることで仕事に戻ってきてもらうことを目指します。逆に、高所得者向けには、全額、利用者の自費で行なうことにより、多くの売上や収益が見込める代わりに、能力の高い職員が求められるため、仕事は大変だけど収入も多いという働き方になります。そうすれば意識の高い職員や向上心の高い職員が仕事に戻ってくると考えています。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

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