「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

「山川はなんで消化器外科なの」突然の質問に僕は…

「専攻医1年目の山川悠です。石山病院で2年間の初期研修を終え、外科を学ぶために東国(ごとうく)病院に来ました。よろしくお願いします」

 

人前で話すのが苦手な僕は、最低限の挨拶をなんとか済ませた。

 

「同じく専攻医1年目の東です。私は手術、抗がん剤など癌の治療全般に興味があります。最先端の医療を学びたいと思い、東国病院での研修を希望しました。ここで研修できることを光栄に思います。至らぬこともあるかと思いますが、全力でやってまいりますのでよろしくお願いします」

 

一方で、同期の東さんは堂々としている。東さんは僕も聞いたことのある関西の有名病院で初期研修を過ごした超エリートだった。最初の挨拶だけでとんでもなく差があるように感じてしまう。

 

この日は、病院のオリエンテーションがあり、カルテの使い方や施設案内が行われた。オリエンテーションには僕と同じように今年度から専攻医として研修に来た十数人の同期が集まった。

 

「おれは泌尿器科の専攻医なんだ。よろしく」

「僕は消化器外科。こちらこそよろしく」

 

泌尿器科の早坂はその1人で、高校時代に野球部に所属していたという共通点があり、そのおかげかどうかは分からないが、僕たちはすぐに打ち解けられた。

 

「僕、東京に出てきたばかりで知り合いもいないんだ。だから仲良くなれそうな同期がいて心強いよ」

「おれも同じようなものだよ。ぜひ仲良くしてくれよな。ちょくちょく飲みに行こう」

 

こうして幸先よく同期の友だちができた。オリエンテーションは午前中に終わり、僕たちは病院の社員食堂で昼食をとることにした。

 

「広いなあ」

「うん、けど結構席は埋まっているね」

 

社員食堂はざっと200席はあるが、ほとんど埋まっている。正午の一番混む時間帯とはいえ、これだけの席が埋まってしまうのかと、改めて病院の規模の大きさを実感する。

 

メニューも充実していて、日替わりのA定食、B定食、C定食のほか、スペシャルメニューやうどん、カレーライス、ラーメンなどひと通り揃っている。値段も定食が300円とかなりリーズナブルだ。

 

石山病院には食堂がなかったため、宅配弁当だった。宅配弁当は毎日食べているとメニューが違っても同じ味に感じてしまい、食べるのが辛くなってくる。

 

その結果、去年の秋頃からは昼食を抜くようになってしまった。病院に食堂があると聞いてワクワクしていたが、さらにこの充実ぶりは嬉しい。

 

「早坂はどうして泌尿器科を選んだの」

「手術もあるし、外来もあるし、泌尿器科医にしかできないことも結構あるから、やりがいがあるかなと思って。山川はなんで消化器外科なの」

「なんとなくかな」

「なんだよ、それ」

 

やはり「手術が好きだから」とは言えなかった。

 

定食を食べながらたわいもない話をする。今日会ったばかりとは思えないほど、早坂と話すのは気楽だった。向こうもそう感じていたのではないだろうか。


「じゃあ、また」


早坂は早速午後から仕事があるようで、昼食を終えると食堂を後にした。

 

続く…

 

本記事は連載『孤独な子ドクター』を再編集したものです。

 

月村 易人

 

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