「じゃあ税金いらないじゃん!」…ではないのです。
さて、ここまで読んで、「何というデタラメを言っているのか! 政府がいくら借金しても返済しないでいいならば、税金なんかいらないではないか。無税国家ができるとでもいうのか!」と腹を立てて、スマホを投げ捨ててしまう方もおられるかもしれません。その前に、もう少し辛抱して、議論に付き合ってください。
もちろん、政府は、無限に財政赤字を拡大することはできませんよ。限界は、あります。
では、財政赤字の限界とは、何でしょうか?
まず、政府が、財政赤字を拡大しまくったら、何が起こるかを考えてみましょう。例えば、政府が盛んに公共投資をやり、投資減税や消費減税をやったら、需要が拡大して、供給力を超えるので、インフレになります。
それにもかかわらず、公共事業をやりまくり、ついでに無税にしてみたら、どうなるか。おそらく、インフレが止まらなくなり、遂にはハイパーインフレになるでしょう。
インフレとは貨幣の価値が下がることですが、ハイパーインフレになると、お札はただの紙切れになってしまいます。ハイパーインフレは、さすがに困る。いくら政府に通貨発行権があっても、その通貨が無価値になってしまうのです。ハイパーインフレこそ、国家の財政破綻と言っていいでしょう。
要するに、財政赤字が拡大し過ぎると、インフレが行き過ぎるのです。ということは、財政赤字はどこまで拡大してよいかと言えば、「インフレが行き過ぎないまで」ということになります。
財政赤字の制約を決めるのは、インフレ率(物価上昇率)なのです。
■財政赤字の大きさは関係ない
以上のような財政の考え方を「機能的財政論」といいます。財政は、財政収支が黒字か赤字かではなく、財政赤字の額の大きさでもなく、財政が経済においてどのように機能しているか(物価にどのような影響を与えるかなど)で判断すべきだ。これが「機能的財政論」なのです。
まとめると、次のようになります。
●財政赤字の制約となるのは、民間部門の貯蓄ではない(財政赤字は、それと同額の民間貯蓄を創出するから)。
●財政赤字の制約となるのは、政府の返済能力でもない(政府には、通貨発行権があるから)。
●財政赤字の制約を決めるのは、インフレ率である。インフレになり過ぎたら、財政赤字を拡大してはいけない。
●財政赤字を無限に拡大できない理由は、そんなことをすると、ハイパーインフレになってしまうからである。
これで「ああ、よかった。やっぱり、財政赤字は無限に拡大してはいけないんだな」と安心していただけたかと思います。
次回はその上で、あらためて、日本の財政赤字について考えてみましょう。
【次回に続く】
中野 剛志
評論家
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