新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

コロナ禍で瀕死の大規模小売店は生き残れるか

コロナ禍は人々の行動をいろいろな形で制限しました。基本は一日中家にいろ、というものです。当初は人出を8割減らせということで、新宿、渋谷、銀座といった繁華街に出かけることを自粛するよう要請されました。

 

ところで「自粛を要請する」という国や自治体の発言は何度聞いても、あるいは文書で読んでも不可解な日本語です。本来、自粛とは自分から進んで考えて、行ないや態度を改めるものであって、他人から要請されるものではないからです。

 

百貨店、家電量販店など大規模小売店が大打撃を受けたが、一方で……。(※写真はイメージです/PIXTA)
百貨店、家電量販店など大規模小売店が大打撃を受けたが、一方で……。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

それはともかく、繁華街に行ってはいけないと要請するのは、繁華街にある百貨店などの大規模小売店舗には「客が来ない」ようにされることと同義となりました。多くの百貨店ではこの要請を受けて、休業を余儀なくされました。これまで百貨店は人が集まる繁華街に出店することで商売を成り立たせてきたのですが、「人が集まってはいけない」という宣言は事実上、商売をやってはいけないと言われたのに等しい、死亡宣告のようなものでした。

 

百貨店と同様に家電量販店や大型家具店、衣料販売店なども、休業や営業時間短縮を余儀なくされました。

 

買い物の楽しさは煌びやかに飾られたお店に行き、店員の説明を受けながらじっくりと商品を手に取り、あれこれ比較しながら最後には納得して買うという一連の行動にある、と言われてきました。しかし、人気の店であるほど、その商品を買おうとする大勢のお客様が集まります。群集心理とは面白いもので、人が集まっているとその集まっていることに興味を抱いた人がさらに寄ってくるといった相乗効果が出てきます。

 

今回のコロナ禍はそうなってはいけないという要請です。それは人々の買い物をする、したいという欲望、あるいは「何やってるんだろ」と興味を持って集まる心理を真っ向から否定したとも言えるものでした。

 

しかしいっぽうで、百貨店はコロナ禍がなかったとしても、すでに多くの経営課題を背負っていました。百貨店が全盛だったのは1991年頃です。日本百貨店協会の調査によれば、この年の全国百貨店の売上高は9兆7000億円に及んでいましたが、28年後である2019年にはその額は5兆7000億円にまで、4兆円も落ち込んでいます。

 

落ち込んだ原因はバブル崩壊後の長く続く景気低迷もその一因ですが、百貨店の儲け頭だったアパレルや家具といった商品で、百貨店ブランドにはない、ユニクロやニトリに代表される品質の良い、低価格な商品が台頭したことなどがあります。

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