
新型コロナウイルスのワクチンの登場が待たれます。経済的な視点から見ても、ワクチンは無料にして多くの人に接種するのが望ましいと思われますが、とはいえ、一度に国民全員分のワクチンを用意できるわけではありません。本記事では、経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、ワクチン無料化の経済合理性の検証とともに、どのように接種をスタートすれば効率的かもあわせて考察します。
全員に無料で接種すれば「社会的利益が増す」が…
一向に収まる気配を見せない、新型コロナの蔓延。世界各国がワクチンの開発など、急ピッチで対策を進めていますが、ワクチンができた暁には、日本政府は希望者に無料で接種する方針でいるようです 。副作用が少ないワクチンが開発されるのであれば、ぜひそうすべきだといえます。以下、その理由について解説していきましょう。
まず、新型コロナに罹患すると自分が苦しいのみならず、他人を感染させてしまうリスクがあります。つまり、社会に迷惑をかけることになるのです。これを予防できれば社会のためにもなりますから、ぜひワクチンを広く接種してもらいたいですね。
問題は、「ワクチンを接種してほしいのに、接種してくれない人」が大勢いそうだ、ということです。経済合理的に考えれば、罹患することが社会の迷惑になるとしても、個々人にはそれを防ぐためにワクチンの代金を払うインセンティブがないからです。数値例で見てみましょう。
罹患した場合、仮に本人の被害の期待値(仕事ができずに収入が減り、苦しい思いをする等)が20万円、社会の被害の期待値(他人を感染させるリスク、医療費の一部を公費で負担する費用等)が30万円で合計50万円の社会的損失だとします。
ワクチンを接種すると、罹患する確率が2%から1%に低下するとします。そうなると、ワクチンの接種で自分の被害の期待値は20万円の1%である2000円減りますが、ワクチンの値段が3000円なら接種するインセンティブは持ちませんから、だれも接種しないでしょう。これはもったいないことです。接種すれば、社会的な損失の期待値は5000円(50万円の1%)減るのですから。
それならば、全員に無料でワクチンを接種するほうが社会的な利益が増すので、そのようにすべきでしょう。
ちなみに、罹患しやすい生活をしている人や、罹患すると重症化しやすい人などもいると思いますが、とりあえずここでは全員一律だと考えました。
