近年、栄養不足の赤ちゃんが増えています。飽食の時代でありながら、一体なぜなのでしょうか? 実は、現代特有の問題が関係しています。医学的・科学的な根拠に基づいて解説し、最適な栄養を与えるためのポイントを紹介します。※本連載は、医師、Child Health Laboratory代表の森田麻里子氏の著書『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ビタミンD・ビタミンK、鉄分が不足…母乳育児の盲点

母乳育児にはたくさんのメリットがありますが、実は隠れた落とし穴もあります。近年増えているのが、赤ちゃんのビタミンD不足です。

 

2017年9月の日本外来小児科学会では、母乳栄養の赤ちゃんの75パーセントがビタミンD不足であるという研究結果が発表されました※1。ビタミンDが不足すると、骨の変形や成長障害を起こす「くる病」という病気になることがあります。くる病は戦後間もない時期によく見られましたが、その後減少し、20年前にはほとんど確認されていませんでした。しかし、ここ十数年で再び患者が増えているのです※2

 

母乳は赤ちゃんにとってたくさんのメリットがありますが、実は完璧な栄養というわけではありません。もともと母乳にはビタミンDとビタミンK、鉄分が足りないのです。たとえば厚生労働省の基準では、ビタミンDの摂取目安量は乳児で5.0マイクログラムです※3。育児用ミルクには1リットルあたり10マイクログラム前後のビタミンDが含まれているのに対し、母乳は0.16〜1.5マイクログラム程度と、とても少ないのです※4。母乳を1日1リットル飲んでいたとしても、十分な量には達しません。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

アレルギーや紫外線を過剰に回避…現代特有の問題

それでも、母乳で育つ子どもは昔からたくさんいたはずです。なぜ、最近になってくる病の子が増えてきているのでしょうか? これには、アレルギーを恐れた食事制限や、日光浴の不足が影響していると考えられています。

 

たとえば、離乳食が始まっている赤ちゃんであれば、ビタミンDを食事から摂取することができます。ビタミンDは魚やきのこ、卵に多く含まれています。たとえば、イワシやサンマ1尾に約15マイクログラム、鮭1切れに約26マイクログラム、まいたけ100グラムに約5マイクログラム、卵黄1個に約1マイクログラムです。しかし、卵などの食品を制限してしまうと、ビタミンDは不足しやすくなります。アレルギーを防ぐために卵などの食品の摂取を遅らせることは、現在推奨されていません。もちろん最初は少量ずつ食べさせるなどの注意が必要ですが、卵の黄身や白身魚は、アレルギー症状などの問題がなければ積極的に食べさせてみてはいかがでしょうか? 白身魚の場合、タラにはビタミンDが少ないので、カレイやシラスがおすすめです。

 

また、赤ちゃんの日光浴で紫外線を浴びることもとても大切です。紫外線というと、悪者のイメージがあるかもしれません。以前は母子手帳でも日光浴が推奨されていたのですが、1998年以降は「外気浴」という言葉に変わっていますし、赤ちゃん用の日焼け止めも多数販売されています。これは、紫外線の悪影響が認識されるようになってきたからです。たしかに子どもの日焼けは、しわやしみなどの皮膚老化を早める・将来、皮膚ガンを起こしやすくなる・目の病気を起こしやすくなるといったデメリットがあるので※5、皮膚が赤くなるほどの日焼けは避けるべきです。

 

しかし、紫外線は、皮膚に当てることでビタミンDを作り出すという大切な役割もあります。

 

国立環境研究所が2013年に発表したデータによると、5.5マイクログラムのビタミンDを作り出すのに必要な日光浴は、晴天の7月の正午なら札幌・つくば・那覇でそれぞれ、4.6分、3.5分、2.9分、晴天の12月の正午なら76.4分、22.4分、7.5分です※6。これは大人が顔と手の甲を露出した場合の時間なので、体の表面積が少ない赤ちゃんの場合は、大人の数倍の時間が必要かもしれません。それでも、夏場は日光浴だけでもかなりのビタミンDを補うことができそうです。逆にいうと、紫外線を極端に浴びない生活をすると、それだけでビタミンDが不足してしまうかもしれません。

 

私も、ちょっとお散歩に出るだけでも一生懸命日焼け止めを塗っていたママの1人でした。でも、このことを知ってからは、紫外線をそれほど気にしなくなりました。もちろん帽子はかぶせますし、日光に長時間さらされるようなときは日焼け止めを塗りますが、日常的にUVカットのレッグウォーマーをはかせるのはやめて、脚を出すようにしました。

 

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